こんにちは、大人バレエアカデミー™、バレエトレーニングディレクターの猪野です。

センターで先生が「右足前、クロワゼから」と言う。
5番に足を入れて、言われた斜めに身体を向ける。
最初のポーズで迷う方は、それほど多くありません。

ところが、順番の途中で向きが変わったり、反対側が始まったりすると、急に分からなくなる。
いま自分がクロワゼなのかエファセなのか、考えているうちに音楽は進んでいく。
気がつくと、隣の人をちらっと見てから向きを合わせている。

心当たりはありませんか?

向きで迷うのは、覚えが悪いからではありません。
スタジオの番号と、クロワゼやエファセという身体の向きの名前を、同じものとして覚えている。
迷い始めるのは、だいたいそこからです。

クロワゼは「何番の角」のことではありません

バレエのスタジオでは、部屋の方向に番号を付けて呼びます。
正面が1番で、前の斜めが2番と8番です。
そこから横の壁や後ろの角にも番号が振られています。

ほかの教室で習ってきた方は、番号の振り方が違っていて戸惑うこともあるでしょう。
ただ、どの振り方でも、番号が部屋に付いていることは同じです。
自分がどちらを向いても、スタジオのどこに立っていても、1番の場所は動きません。

一方で、クロワゼやエファセは部屋の場所の名前ではありません。
正面から見たときに、脚が交差して見えるのか、開いて見えるのか。
身体と脚の関係を表す名前です。

基準が正面にあるのは、もともと舞台の上で、客席からどう見えるかを表す言葉だからです。
スタジオでは鏡のある側を客席だと考えて、そこから自分がどう見えているかで決まります。

右足前の5番で8番を向いて立つと、正面からは脚が重なって見えます。
これがクロワゼです。
同じ右足前の5番でも、2番を向けば脚は開いて見えて、エファセになります。

最初に習うのは、たいていこの形です。
いつも右足前から教わるので、「クロワゼは8番、エファセは2番」と角で覚えてしまう方が少なくありません。
右側だけを練習しているうちは、それで困る場面もほとんどないでしょう。

困るのは、前の脚が変わったときです。

左足前の5番で8番を向けば、今度は正面から脚が開いて見えます。
同じ8番を向いているのに、エファセです。

脚を出す方向でも変わります。
8番を向いて右脚を前に出せばクロワゼですが、同じ向きのまま、左脚で立って右脚を後ろへ出すと、正面からは脚が開いて見えるのでエファセになります。

角で覚えていると、ここで自分の中の答えと先生の言葉が合わなくなります。
「8番を向いているのに、どうしてエファセなんだろう」と考えているうちに、次の動きが始まってしまう。
向きが分からなくなる瞬間は、たいていこういうところにあります。

反対側では、名前はそのままで番号が入れ替わります

センターの順番は、右から始めて、左でも同じことをするのが普通です。
左側では、右側で8番を向いていたところが2番に変わります。

番号は部屋に付いているので、左右で入れ替わります。
でも、クロワゼやエファセという名前はそのままです。
右側でクロワゼだったところは、左側でもクロワゼです。

右側を角で覚えていた方は、左側でも8番を向いてしまいがちです。
身体は右側と同じ角を向いているので、本人は同じことをしている感覚でいます。
ところが前の脚は左に変わっているので、正面から見ると脚は開いている。
「クロワゼですよ」と言われても、どこが違うのかすぐには分かりません。

反対に、番号で覚え直そうとした方は、今度は名前を言われたときに迷います。
「左側だとクロワゼは2番だから」と頭の中で置き換えているうちに、もう一つ先の動きが来てしまう。

どちらも、クロワゼとエファセを知らないわけではないのです。
覚えたことを、動きながら取り出すのが間に合っていない。

止まって考えれば分かる方でも、パ・ド・ブーレで向きを変えた直後や、左側の一回目になると考える時間が足りなくなります。

移動が入ると、さらに迷いやすくなります。
斜めに進む順番では、進んでいく先の角に引っ張られて、おへそまでそちらへ向いてしまう方が多いです。
進む方向と、身体を向けておく番号が、いつも同じとは限りません。
どちらへ進むかと、どちらを向いているかを一緒にしてしまうと、着いたときには自分がどちらを向いているのか分からなくなります。

ですから、名前を覚え直すより、どの順番で確かめるかを決めておいたほうが、迷う時間は短くなります。

先に合わせるのは、おへその向きです

アカデミーでは、初級のクラスに上がる目安の中に、方向を1番から8番まで理解していることと、おへそを8番、1番、2番に向けられることを入れています。
クロワゼやエファセの方向の理解も同じ目安に入っていますが、このときの上体はスクエアのままでよい、としています。
目安の全体はクラスレベルを上げるための目安の技術についてに載せています。

私は、向きは名前より先に、番号で身体に入れておいたほうがいいと考えています。
番号は部屋に付いているので、前の脚が右でも左でも答えが変わりません。
迷ったときに戻れる場所があれば、名前はそこから確かめ直せます。

そして、番号に合わせるのは顔でも足先でもなく、おへそです。

レッスンでよく見かけるのは、足元は8番を向いているのに、骨盤と胸が正面に近いまま残っている形です。
本人は斜めを向いたつもりでいますが、正面から見ると身体の途中でねじれています。

こうなる理由の一つが鏡です。
斜めを向くと、鏡の中の自分は見えにくくなります。
形を確認しようとして顔を鏡に向けると、肩も一緒についていって、上体が正面へ戻ってしまう。

鏡は確認には使えます。
でも、斜めを向いている最中に鏡を見ながら形を作ろうとすると、向きそのものが崩れてしまいます。
ここは鏡を探すより、おへそが何番を向いているかを身体で感じるほうが先です。

おへそだけでは分かりにくければ、腰骨の前の出っ張りに両手を当ててみてください。
左右の出っ張りが、向きたい番号から見て同じ距離にあるか。
片方だけが前に残っていたら、骨盤はまだ正面のほうを向いています。
手を当てたまま向きを変えてみると、足元だけ回したときと、骨盤から回したときの違いが分かりやすいはずです。

おへそが番号に向いたら、次に脚を見ます。
1番から見たときに、前の脚が身体を横切るように重なっているか、それとも開いているか。
自分では正面から見られないので、前の脚がどちらで、おへそが何番を向いているかから判断します。

「8番だからクロワゼ」と角から決めるのではなく、「おへそは8番、前は右脚、正面からは重なって見える、だからクロワゼ」と順番に確かめる。
慣れるまでは遅く感じるでしょう。
ただ、角で覚えたものは左右で置き換えが必要ですが、この確かめ方は左側でも同じ手順で答えが出ます。

「もっとクロワゼに」と言われたら、どこを直しますか

センターで「もっとクロワゼに」と言われたとき、どうしていますか?
身体をもう少し角へ回す方もいれば、脚をもっと深く交差させようとする方もいます。
先生の「もっと」が何についての「もっと」なのか、言葉だけでは分かりにくいのです。

以前、動画で首の向きについて話したときにも、同じことを言いました。
足や腕のポジションははっきり教わるのに、首や顔の向きはあまり教わらないまま、注意だけされることが多いのです。
「もっと右」「もっと後ろ」と言われても、自分の頭がいまどの向きにあるのか分かっていなければ、何を動かせばいいのか決められません。
基準になる向きを知っていれば、いまの自分がずれていても、どちらへ直せばいいかを考えられます。

クロワゼも同じです。
おへその番号と、正面から見た脚の重なりを分けて確かめていれば、「もっとクロワゼに」と言われたときに、どちらが足りないのかを自分で探せます。

おへそが1番寄りに戻っているなら、身体を番号へ向け直す。
おへそは向いているのに脚が重なって見えないなら、どちらの脚が前にあるかを確かめる。

それでも分からなければ、「おへその向きですか、脚ですか」と聞いてください。
グループレッスンでその場で聞くのが難しければ、レッスンの後でも構いません。

教える側にも、言い方を考える責任があります。
「クロワゼで」の一言で伝わるのは、すでに確かめ方を知っている人です。
向きで迷っている生徒さんには、何番を向くのか、どちらの脚が前なのかまで言ったほうが早く伝わります。
「クロワゼって言ったでしょう」と何度言っても、言われた側が向きを分かるようにはなりません。

アカデミーで方向の理解を初級に上がる目安に入れているのも、確かめ方が分からないまま順番だけが長くなると、毎回隣の人を見て向きを合わせることになるからです。

隣の人を見て合わせること自体が悪いわけではありません。
ただ、それを続けていると自分で向きを決める練習にはならないので、左側や新しい順番になるたびに、同じところで迷います。

向きが変わるところだけを、取り出して練習する

向きを変えて着いた先で迷う方は、練習がいつも音楽に合わせて全部を通すだけになっていないでしょうか。
通しで何度やっても、迷うところは毎回同じ速さでやってきます。
考える時間が足りないところを、同じ速さで繰り返しても、考える時間は増えません。

ここは、向きが変わるところだけを取り出して練習したほうが早いです。

例えば、右足前のクロワゼから始まって、パ・ド・ブーレで左足前のクロワゼに変わる順番があるとします。
パ・ド・ブーレの最後で一度止まって、おへそが何番を向いているか、前の脚がどちらかを確かめる。
右足前で8番を向いていたのが、左足前で2番を向いていれば、どちらもクロワゼです。

番号は変わっても、名前は変わっていない。
このことを、着いた瞬間に自分で言えるかどうかです。
止まれば言えるようになったら、次は止まらずに、着いた瞬間に心の中で番号を言ってみる。
そこまでできれば、音楽に合わせても向きで遅れることは減っていきます。

家で練習するなら、部屋の壁を一つ決めて、そこを1番にしてみてください。
5番で立って向きを変えるだけなら、広い場所はいりません。
1番を決めたら、8番と2番を交互に向いて、そのたびに前の脚を替えながら、いまがクロワゼかエファセかを声に出して言ってみる。
台所の流しを1番にしてもいいくらいです。

動画を撮れるなら、スマートフォンを1番の位置に置いてみてください。
正面から撮った映像なら、脚が重なって見えるのか開いて見えるのかが、そのまま映ります。
自分で言った答えと映像が合っているかを見れば、どこで取り違えているかも分かります。

このとき、上体はまだスクエアのままで構いません。
顔の付け方や腕まで一度に加えると、向きを考える余裕がまたなくなります。
向きで迷わなくなってから、顔を付けたり腕を加えたりしても遅くはありません。

次のレッスンのセンターでは、最初のポーズを取る前に、まずおへそを何番に向けるかを決めてください。
向いたら、前の脚がどちらで、正面からは重なって見えるのか開いて見えるのかを、鏡を見ずに自分で言ってみる。
左側を始めるときも、同じ順番でもう一度確かめます。
それでも迷ったところがあれば、どの順番の、どの動きの後だったかを覚えておいて、レッスンの後に先生に聞いてみてください。

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