こんにちは、大人バレエアカデミー™、バレエトレーニングディレクターの猪野です。

仕事でくたくたの夕方、レッスンに行くかどうか迷った経験はありませんか。
今日は休もうかな、と思いながらもなんとかスタジオに着き、バーにつかまってプリエを始める。
レッスンを終えてスタジオを出るころには、来る前よりも呼吸が少し深くなっている。
大人になってからバレエを始めた方なら、この「なんだか気持ちが軽い」という感覚に覚えがあるのではないでしょうか。

この軽さは、ただの気分なのでしょうか。
それとも、身体を動かしたことによる確かな変化なのでしょうか。
ダンスと心の健康については、ここ数年で研究がかなり増えました。
ただ、論文の中身を読むと、「ダンスは心にいい」とある程度言える部分と、まだわからない部分がはっきり分かれています。
バレエを長く楽しんでほしいからこそ、どちらも知っておいてほしいと思います。

「軽くなる」感覚には、いくつかの理由が重なっている

レッスン後の気分の変化は、一つの原因だけで起きているわけではなさそうです。
ダンスが心に働きかける仕組みとして、研究者たちがよく挙げるのは次の四つです。
身体を動かすこと、音楽に合わせること、人と一緒に動くこと、そして頭を使うことです。
ウォーキングやジョギングは主に一つ目ですが、ダンスは四つを一度に含んでいます。

バレエの場合、とくに大きいのが四つ目の「頭を使う」部分です。
右足が前か後ろか、腕はアン・バーかアン・ナヴァンか、何カウント目で向きを変えるのか。
一つひとつは小さな判断でも、それが途切れなく続くと、仕事の心配ごとや家のことを考える余裕がなくなります。
考えごとをしながら歩くのとは違い、バレエは身体と頭の両方を「今この瞬間」に引き戻します。
終わったあと頭がすっきりしているのは、この時間があったからだと私は考えています。

ただし、「理屈ではそうなりそう」という段階と、「実際に人を集めて確かめた」という段階のあいだには、思っている以上に距離があります。
では、実際に確かめた研究では、何がわかっているのでしょうか。

研究が最も多い高齢の方では「可能性あり」の段階

ダンスと心の健康の研究は、高齢の方を対象にしたものが特に多くあります。
転倒予防や物忘れの予防と合わせて、気分の落ち込みや不安にも役立つのではないかと注目されてきたからです。

2025年に発表された中国の研究チームによる分析(Ma & Zhang、2025年)は、高齢者を対象にした13本のランダム化比較試験をまとめたものです。
ランダム化比較試験とは、参加者をくじ引きのように「ダンスをするグループ」と「しないグループ」に分けて比べる方法で、効果を確かめるやり方としては信頼性が高いとされています。
対象は合計1,083人、平均年齢は約72歳で、そのうち861人が女性でした。
この分析では、9種類のダンスを同時に比べています。
広場ダンス(中国で広く親しまれている集団のダンス)、エアロビックダンス、社交ダンス、創作ダンス、ダンスゲームなどです。

結果を見ると、広場ダンスは何もしないグループと比べて、抑うつ、不安、幸福感のすべてで良い結果を示しました。
不安については、グループで踊るダンスも良い結果でした。
ただ、種類ごとに見ると、何もしないグループとの差がはっきりしたダンスは限られていました。
そして、気になる方もいると思いますが、バレエは13本の研究に一つも含まれていません。

著者たち自身も、限界をはっきり書いています。
ダンスの種類によっては研究が1本か2本しかないこと。
13本のうち5本が中国の研究で、ほかの国の人にも同じことが言えるかはわからないこと。
研究ごとに方法や測り方がばらばらで、長期間の追跡も少なく、効果がどれくらい続くかはわからないこと。
プログラムの中身も、期間が1か月半から12か月、頻度が週1〜5回、1回30〜60分と幅があり、どれくらいの量が最もよいのかは示されていません。
「どのダンスが一番か」という順位も不確かだとしたうえで、著者たちは、高齢の方には本人が興味を持てる種類を選んでもらい、続けやすくすることが大切だとまとめています。

もう一つは、ブラジルの研究チームによる系統的レビュー(Nogueiraら、2024年)です。
系統的レビューとは、決まった手順で関連する研究をもれなく集め、まとめて評価する方法です。
高齢者を対象にした19本のランダム化比較試験を集め、そのうち16本の数字を合算して計算し直しています(この合算の手法をメタ分析と呼びます)。
ダンスは社交ダンス、タンゴ、ギリシャの伝統舞踊、ベリーダンス、ラテンダンスなどさまざまでした。
期間は5週間から18か月まで幅がありましたが、3〜4か月のプログラムが多く、1回は30〜120分、週あたりの合計は平均で120〜150分ほどでした。
研究が行われた国は、ブラジル、中国、ギリシャ、スペイン、アメリカ、韓国など10か国以上にわたります。

抑うつについては、ダンスをしたグループで症状が軽くなるという結果が出ました。
ただし、この差がはっきり出たのは「何もしないグループ」と比べた場合です。
ほかの運動や理学療法など、別の活動をしたグループと比べると、ダンスとの差は見られませんでした。
「ダンスでなければならない」というより、「何か身体を動かす活動をすること」に意味がある、と読むほうが自然です。
不安については研究が4本しかなく、結果のばらつきも大きかったため、結論は出せないとされました。
そのうえで著者たちは、結果の確実性を「非常に低い」と評価しています。

二つの研究を合わせると、高齢の方にとってダンスは、気分の落ち込みや不安をやわらげる「可能性がある活動」です。
「必ず効く」とまでは言えないものの、良い方向の結果が少しずつ積み重なってきています。

若い世代やうつ病の人まで広げると、どうなるか

高齢の方に限らない、大人全般ではどうでしょうか。

2026年に発表された分析(Xing、2026年)は、過去10年ほどのランダム化比較試験19本、合計1,375人をまとめたものです。
対象の年齢は16歳から83歳までと幅広く、参加者の8割以上が女性でした。
入院が必要なほど重い状態の人は少なく、多くはアンケートで抑うつ的な気分が強めと判定された人たちです。
ダンスセラピー(心理療法の一つで、動きを通じて気持ちを扱う方法)と、ズンバやタンゴなどの一般的なダンスの両方が含まれていました。

全体として、ダンスをしたグループでは抑うつ的な気分が軽くなっていました。
18〜49歳でも50歳以上でも、良い結果が出ています。
持病のある人に分けて見ると、軽度認知障害(物忘れが少し増えた状態)や慢性的な痛みのある人では良い結果が出た一方、パーキンソン病の人でははっきりした差が見られませんでした。
効果の出方は、人によって違うと考えておいたほうがよさそうです。
期間別では、4週間以下の短いプログラムでは差がはっきりせず、4〜12週間のプログラムで最も大きな差が見られました。
12週間を超える研究は3本しかなく、長く続けた場合の効果はまだよくわかっていません。
また、研究ごとの結果のばらつきが非常に大きく、くじ引きの手順がきちんとしていたかわからない研究も少なくありませんでした。
手順に問題がありそうな研究を除いて計算し直すと、差はやや小さくなりましたが、良い方向の結果は残りました。
バレエの研究は、ここにも含まれていません。

医学雑誌BMJに2024年に載った大規模な分析(Noetelら、2024年)もあります。
うつ病と診断された人や、アンケートでうつ病の目安を超えた大人を対象に、運動の効果を調べた218本のランダム化比較試験、合計14,170人をまとめたものです。
ウォーキング、ヨガ、筋力トレーニングなど、さまざまな運動が比べられました。
その中でダンスは、うつの症状を大きく減らす数字を示しています。
しかし、ダンスの研究はわずか5本、参加者は107人しかいません。
参加者の88%が女性で、平均年齢は31歳でした。
著者たちは、研究の数が少なく、方法にも偏りがあるため、ダンスをより強く勧めることはできないと書いています。

この分析では、運動全体として、強めの運動ほど効果が大きい傾向が見られました。
一方で、ウォーキングやヨガのような運動でも、中くらいの改善が見られています。
バレエは、同じレッスンの中でも、ゆっくりしたアダージオから息が上がるジャンプまで強さが変わります。
その日の体調に合わせて強さを調節しやすいことは、続けやすさにつながるはずです。

この研究は、「ダンスは薬よりうつに効く」といった見出しで紹介されることがあります。
しかし、5本・107人という数字を知ると、そう言い切るのは無理があります。
ダンスは心の助けになりえますが、うつ病の治療の代わりにはなりません。

気分の落ち込みや不安が2週間以上続いている、眠れない、食欲がない、仕事や家事が手につかない。
そんな状態があるなら、まずはかかりつけ医や心療内科・精神科に相談してください。
どこに行けばいいかわからないときは、お住まいの地域の保健センターや精神保健福祉センターでも相談を受け付けています。
治療中の方は、主治医と相談しながらレッスンを続けるのが安心です。
レッスンに来られない時期があっても、自分を責める必要はありません。
心と身体を守るために休むのも、立派な判断です。

バレエについては、まだわかっていないことが多い

「では、バレエはどうなの?」と思った方もいるでしょう。
バレエ単独で心の健康への効果を確かめた大規模な研究は、まだほとんどありません。
ここまでの分析のどれにも、バレエのレッスンを対象にした研究は含まれていませんでした。

数少ない研究の一つに、アメリカで行われた聞き取り調査があります(Pines & Giles、2020年)。
西海岸の小さな町で、趣味としてバレエを続けている23歳から87歳の女性24人にインタビューした研究です。
参加した女性たちは全員が、バレエで身体と心の調子が良くなったと語っていました。
多くの人がバレエを「とても社交的な活動」と感じていて、レッスン仲間に家族のような親しみを持っていたそうです。
バレエは自分らしさの一部になっていて、できる限り長く続けたいと全員が話していました。

ただし、これは24人へのインタビューで、バレエを続けている人、つまりバレエが合っている人の声です。
やめた人や、合わなかった人の声は入っていません。
「バレエをすると心が元気になる」という因果関係ではなく、「続けている人はこう感じている」という記録として受け止めるのが妥当です。

イギリスで2025年に発表された研究(Dochertyら、2025年)では、大人のバレエを教える先生17人にインタビューしています。
先生たちは、プロを目指すバレエは成果を重視して厳しい指導になりやすい一方、大人のバレエは過程を大切にし、生徒の心身の健康を思いやる教え方になっていると語っていました。
これも少人数の聞き取りですが、大人のバレエが「結果より過程を楽しむ場」として独自の価値を持ちうることを示しています。

ダンス全般では心への良い影響を示す研究が増えていて、バレエを続けている大人もその恩恵を感じている。
けれども、バレエそのものの効果を数字で確かめた研究はまだ少ない。
これが、2026年時点での正直な状況です。

音楽、型、手応え、仲間――バレエに備わっている心の支え

研究が少ないからといって、バレエに心を軽くする要素がないわけではありません。
冒頭の四つの仕組みを思い出しながらバレエのレッスンを振り返ると、心の支えになりそうな要素が少なくとも四つ見えてきます。

まず音楽です。
バレエのレッスンは、最初から最後まで音楽とともに進みます。
イギリスの研究チームがブラジルの学校で10代の若者264人を対象に行った実験(Tarrら、2015年)では、ほかの人と動きをそろえて踊ることと、しっかり身体を動かすことが、それぞれ別々に、仲間との親近感を高め、痛みを感じにくくする方向に働いていました。
痛みの感じにくさは、気分に関わる脳内物質(エンドルフィン)の働きを間接的に見る目安として使われています。
対象は大人ではなく、1回の実験の結果なので、そのまま大人のバレエに当てはめることはできません。
それでも、みんなで同じ音楽に合わせて同じ動きをするバーの時間を思い浮かべると、私にはうなずける部分があります。

次に型です。
バーレッスンは、プリエ、タンデュ、ジュテ、ロン・ド・ジャンブと、ほぼ決まった順番で進みます。
一見単調ですが、次に何が来るかわかっている安心感は、予定に追われる毎日の中では貴重です。
決まった流れに身をゆだねるうちに呼吸が整っていく、バーにはそんな「整える時間」の面もあります。

三つ目は、少しずつできるようになる手応えです。
大人から始めると、最初は足のポジションさえ思うように取れません。
それが数か月たつと、アンシェヌマン(いくつかの動きをつなげた組み合わせ)を覚えられるようになり、バランスが一瞬長く保てるようになります。
大人になってから「上達する喜び」を味わえる場は、そう多くありません。
ダンサーの幸福感についての研究をまとめた2025年の系統的レビュー(Yuら、2025年)でも、自分で選んでいる感覚、できるようになっている感覚、人とつながっている感覚の三つが、幸福感と関わっていました。
このレビューは12歳から64歳までの2,263人を対象にした18本の研究をまとめたもので、プロだけでなく趣味で踊る人も含まれています。
ただし、18本のうち12本はある一時点だけを調べた調査で、幸福感を高める取り組みを実際に試した研究は1本だけでした。
「関わりがある」とは言えても、「こうすれば幸福感が上がる」とまではまだ言えません。

最後は仲間です。
同じクラスの人と顔を合わせ、言葉は少なくても同じ時間を過ごす。
職場とも家庭とも違う場所にゆるやかなつながりがあることは、大人にとって支えになります。
先ほどのインタビュー研究で、バレエ仲間に家族のような親しみを感じるという声があったのも、この要素と重なります。

完璧主義と比べ癖には、少し気をつけたい

一方で、バレエには心の負担になりやすい面もあります。
2026年に発表された系統的レビュー(Parkerら、2026年)は、プロや、プロを目指して学んでいるダンサーのメンタル不調に関わる要因を、37本の研究から整理しました。
特に一貫して見られたのが、完璧主義、自己評価の低さ、体型への不満です。
なかでも、自分に厳しい評価を下し続けるタイプの完璧主義は、心の不調と結びつきやすいとされています。
ほかにも、ケガや痛み、睡眠の問題、先生の否定的な言動、見た目へのプレッシャーが挙げられていました。

このレビューの対象は趣味の大人ではなく、37本のうち9割以上が一時点だけを調べた調査です。
完璧主義が不調の原因なのか、不調だから完璧主義的になるのか、という因果関係まではわかりません。
それでも、大人の生徒さんにも思い当たる部分はあるはずです。

バレエは「正しい形」がはっきりしている踊りです。
鏡の前に立てば、自分の姿と理想の姿の違いがいやでも目に入ります。
隣の人の脚の高さやターンアウト(脚を股関節から外に開くこと)と、自分を比べてしまうこともあるでしょう。
レオタードに抵抗を感じたり、体型が気になったりする方もいるはずです。
真面目な人ほど、できない部分ばかりに目が向き、レッスンのたびに自分を責めてしまいがちです。

このレビューでは、本人の性格だけでなく、先生の言動や周りの雰囲気といった環境の側の要因も挙げられていました。
体型について否定的なことを言われる、できないことを人前で繰り返し指摘される、といった環境が続けば、誰でも苦しくなります。
これから始める方は、体験レッスンで、先生の声かけやクラスの雰囲気が自分に合うかを確かめてみてください。
見るポイントは、たとえば次のようなところです。

  • 注意をするとき、できていない点だけでなく、どう直せばよいかも伝えているか。
  • 初めての人や、ついていけない人に、別のやり方を示しているか。
  • 体型や見た目について、からかうような言葉がないか。
  • レッスンのあとに、質問しやすい空気があるか。

教える側の私たちにとっても、言葉の選び方を見直し続けることは大切な仕事です。

先ほどの幸福感のレビューでは、他人との比較や順位を重視する雰囲気より、それぞれの上達や努力を大切にする雰囲気のほうが、ダンサーの前向きな気持ちと結びついていました。
こちらも多くが一時点の調査なので確かなことは言えませんが、どんな気持ちでレッスンに向き合うかが、心の軽さに関わっている可能性はあります。

心が軽くなりやすいレッスンの受け方

レッスンの前後や家で、今日から試せる工夫です。

仕事帰りのレッスンは、5分早く着く

仕事から駆け込んでそのままバーにつくと、頭は職場に置いたまま身体だけが動いている、ということになりがちです。
できれば5分早くスタジオに着き、着替えたあとに床に座って、足首を回したり、肩を上げ下げしたりしてみてください。
スマートフォンはバッグの中にしまい、通知を見ない時間にします。
この5分が、仕事の自分からレッスンの自分に切り替わる助走になります。
空腹がひどいときは、バナナやおにぎりを少しお腹に入れておくと、途中で集中が切れにくくなります。

比べる相手は、隣の人ではなく3か月前の自分

隣の人と比べたくなったら、比べる相手を「3か月前の自分」に切り替えてください。
アンシェヌマンを覚えるのが少し早くなった、プリエで膝が内側に入りにくくなった、という程度の変化で十分です。
始めた年齢も、身体の柔らかさも、通える回数も、人によって違います。
他人との差より自分の変化を数えるほうが、続ける力になります。

完璧を目指すのは、一つのことだけでいい

腕も脚も顔の向きも全部正しくしようとすると、頭がいっぱいになり、できない部分ばかりが気になります。
その日のテーマを一つだけ決めてください。
たとえば「今日はタンデュで、足の裏を床から離す順番だけ意識する」。
ほかの部分は多少崩れていても気にしない、と最初から決めておくと、気持ちがずいぶん楽になります。

鏡は「確認の道具」として使う

鏡は、姿勢やラインを確かめるための大切な道具です。
ただ、鏡を見るたびに体型や欠点を探してしまうなら、使い方を少し変えてみましょう。
動きを確認するときだけ鏡を見て、それ以外は音楽や足の裏の感覚に意識を向ける。
バーで鏡に背を向ける向きのときは、そのまま身体の内側の感覚に集中するチャンスです。

終わりの数分を、呼吸のために使う

レッスンの最後は、ストレッチやレヴェランス(先生とピアニストへのおじぎ)で終わることが多いはずです。
この数分を、ただの片付け前の時間にせず、呼吸に意識を向ける時間にしてみてください。
鼻から4つ数えて吸い、口から6つ数えてゆっくり吐く。
これを3〜4回繰り返すだけで、ジャンプで上がった息が落ち着き、身体の中が静かになっていくのを感じやすくなります。
帰り支度を急ぐ前の、ほんの1分で十分です。

カウントより先に、音楽を聴く

振りを覚えるのに必死になると、音楽はいつの間にか「カウントを取るための合図」になってしまいます。
アンシェヌマンの前に音が流れたら、最初の数秒はメロディーや雰囲気を耳で味わってください。
ゆったりしたワルツなのか、軽やかなポルカなのか。
音楽の表情に気づくと、同じタンデュでも動きに柔らかさが出てきます。

身体を「見た目」より「できること」で語る

体型が気になると、自分の身体にかける言葉がつい厳しくなります。
そんなときは、見た目ではなく、できるようになったことに目を向けてください。
前より長くルルヴェで立てる、階段を上るのが少し楽になった、背中が伸びる感覚がわかってきた。
身体を採点の対象ではなく、一緒に踊ってくれる相棒として扱うと、レッスンの居心地が変わります。

これから始める方へ

「身体が硬いから」「もう年齢的に遅いから」とためらっている方もいるでしょう。
先ほどのインタビュー研究では、20代から80代まで、幅広い年齢の女性が趣味としてバレエを続けていました。
大人のバレエは、プロを目指すバレエとは目的が違います。
脚の高さより、音楽の中で自分の身体と向き合う時間を楽しめるかどうかのほうが大切です。
最初の数回は、振りを覚えられなくて当然です。
わからないときは、前の列の人の足もとを見ながら、半拍遅れてついていけば大丈夫です。
レッスンの前に、身体の硬さや、気になる痛みがあることを先生に伝えておくと、無理のない形を教えてもらいやすくなります。
最初の1か月は「振りを全部覚える」ではなく、「最後まで音楽の中にいられた」を目標にしてみてください。

疲れている日は、軽めに参加してよい

研究では、数週間から数か月続けたときに差が見られることが多くありました。
1回ごとの出来より、続けることのほうが大事です。
疲れている日や気分が乗らない日は、ジャンプを控えめにする、バーだけ参加する、といった調整をしてかまいません。
レッスンの前に「今日は体調が万全でないので、ジャンプは控えます」と先生に一言伝えておけば、遠慮なく調整できます。
痛みや持病がある場合は、医療者に相談しながら動ける範囲を決めてください。

レッスンのない日は、音楽を一曲だけ

週に一度のレッスンだと、次のレッスンまでの間に気持ちが沈むこともあります。
そんな日は、家でバレエの音楽を一曲だけ流してみてください。
キッチンの台や椅子の背につかまって、1番ポジションで軽くプリエを8回、ルルヴェを8回。
3〜4分で終わる量ですが、音楽に合わせて身体を動かすという、レッスンの一部を家に持ち帰ることができます。
床が滑りやすい場所や、つかまる物がぐらつく場所は避けてください。
やる気が出ない日は、音楽を聴きながら背伸びをするだけでもかまいません。

うまくいかなかった日の帰り道に

注意されたことが頭から離れない、思うように踊れなかった、という日もあります。
そんな日は、帰り道に「直された点」を一つだけ思い出し、それを次のレッスンのテーマにしてください。
注意は、先生があなたの踊りをちゃんと見ていた証拠です。
できなかったことを全部数え上げるより、一つを次回に持ち越すほうが、気持ちの切り替えが早くなります。
それでも気持ちが沈むときは、温かい飲み物を飲む、湯船につかるなど、身体をゆるめることを先にしてください。
反省は、よく眠った翌日のほうがずっと前向きにできます。

レッスンの前後に、ひと言交わしてみる

無理に仲良くなる必要はありません。
「こんにちは」「お疲れさまでした」と声をかけるだけでも、スタジオは少し居心地のいい場所になります。
人と話すのが得意でない方は、同じ時間を一緒に過ごしているだけで十分です。

今日から4週間、レッスン前後の気分を数字でメモする

バレエが心にどれだけ効くのか、研究はまだ答えを出していません。
ダンス全般では気分の落ち込みや不安をやわらげる方向の結果が増えていますが、確実性は高くなく、バレエ単独の研究はほとんどありません。
それでも、音楽、型、手応え、仲間というバレエの要素は、研究で心に良いと考えられている仕組みとよく重なっています。
だから私は、「バレエをすれば元気になる」と期待しすぎるより、「心が軽くなりやすい受け方」を自分で選ぶことをおすすめしています。

そこで、次の4週間、レッスンのたびに一つだけ試してみてください。
スタジオに着いたら、今の気分を0から10の数字でメモに書きます。
レッスンが終わったら、もう一度数字を書き、その横に「できたこと」を一行だけ添えます。
「ルルヴェで少し長く立てた」「先生の注意が一つ理解できた」くらいの短さで十分です。

4週間たったら、メモを見返してください。
レッスン後の数字が前より上がっている日が多ければ、それがあなたにとってのバレエの効き目です。
数字は誰かに見せるものではないので、正直につけてください。
上がらない日の数字も、その日は疲れていたのか、比べる相手が隣の人になっていたのか、と振り返る材料になります。

もし、レッスン以外の時間も含めて、低い数字が2週間以上続くようなら、それはバレエで何とかしようとせず、かかりつけ医や地域の相談窓口に話してみるサインです。
そのうえで、来られるときに、来られる分だけスタジオに来てください。
帰り道に「来てよかった」と思える日が一日でも増えれば、それで十分です。
その日のメモの一行が、次のレッスンでまたバーの前に立つときの、ささやかな後押しになってくれるはずです。

参考文献

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