大人バレエアカデミー、バレエトレーニングディレクターの猪野です。

スタジオでよくある疑問。
「同じように練習しているのに、あの人はくるくる回れる。私はなぜ…?」

真似しようとしても再現できない。本人にコツを聞いても「ぐっとして、すっと回る」みたいな感覚語で終わってしまう。
ここを分解し、誰でも再現できる“直し方”に落としていきます。

結論はシンプル。差を生むキーポイントは次の2つです。

・固有感覚
・小脳による自動化

この2つを育てると、練習の効率が上がる、本番で自分をコントロールしやすい、振り覚えの時間が短くなる…と良いことが連鎖します。動画で見たい方はこちら↓


固有感覚とは何か

人の体には「関節がどれくらい曲がっているか」「筋肉がどの程度出力しているか」を感じ取るセンサーがあります。
この感度が高いほど、動きの微調整ができる。

例)プリエ中に肩に力が入っていても、感度が高ければ「今、入った」と自分で気づき、その場で抜けます。
感度が低いと、指摘されるまで気づけない。結果、崩れたまま反復されてしまう。

ポイント
・“感じる力”は訓練で上がる
・「気づける人」ほど上達が早い


小脳による自動化とは何か

新しい動きは最初、頭で考えながら(大脳)行います。
反復すると、小脳に“動きのプログラム”として保存され、考えなくてもスッとできるようになる。自転車が急に乗れるようになる現象と同じです。

メリット
・考えずに正確に実行できるので、音楽表現や表情に脳のリソースを回せる

注意点
・悪いフォームのまま反復すると、悪い癖も自動化される
・「正確な形」で「適切に反復」する設計が必要


まず育てるべき“入力”は足裏

バレエで外界と接している主な面は「足裏と床」。
ここが“麻酔後みたいに”鈍くなると、押す方向や圧の角度がズレ、ジャンプやピルエットの軌道が乱れます。

足裏を起こす理由
・靴と靴下で一日中保護された足は、日常では細かな感覚入力が少ない
・「分厚い手袋」のまま針に糸を通すようなもの。まず手袋を外す=足裏を目覚めさせる


足裏を“目覚めさせる”簡単ドリル

道具
・ゴルフボール、または100円ショップの突起付きマッサージボール

やり方(1回1〜3分、頻度は“ちょくちょく”でOK)

  1. 立位でボールを踏み、かかと・土踏まず・母趾球・小趾球・指先まで“全体”を転がす

  2. 「今どこに圧があるか」を言語化しながら行う(例:かかと外→母趾球→指の腹…)

  3. 片脚立ちで圧の移動を追跡する(前後・左右・斜め)

  4. レッスン前や歯磨き中など“ながら習慣”にする

ポイント
・マッサージ目的ではない。感覚を“起こす”のが目的
・土踏まずだけを延々やらない。足裏“全域”に刺激を入れる
・感じたことを言葉にする → 小脳のプログラム化が速くなる

期待できる変化
・ジャンプの垂直性が上がる
・ピルエットの押し方向が安定する
・「自分でズレを発見→その場で修正」が可能に


自動化を加速する“一点集中”と“多点同時”

ステップ1:一点集中
・今日のレッスンで「絶対に死守する1項目」を決める
 例)プリエ中“みぞおちが前に出ない”だけは守る

ステップ2:多点同時(上達のボーナスステージ)
・慣れてきたら同時に2〜3項目へ
 例)お腹を保つ+床の圧を前→後へロールさせる+音を先取りしない

コツ
・記録する(終わったら30秒でメモ)
・“守れた率”を数値化する(主観でOK:60%→70%→80%)


家でできる“脳トレ”で分業処理を鍛える

目的
・左右の手、首、足…複数部位を“別々に動かす処理”を強化
・振り覚えや同時制御のキャパが広がる

例1
・右手:2拍子(1–2を繰り返す)
・左手:3拍子(1–2–3を繰り返す)
・慣れたら首を別リズムで“入・抜・センター”と付与

例2
・足踏みを一定で続けながら、上半身は別リズムのポールドブラ

ポイント
・失敗してもバレエの“変な癖”にはならない。安心して反復できる脳の基礎練
・1回2〜3分で十分。毎日やると処理速度が上がる


実践プラン(7日スプリント例)

1日目
・足裏ボール 3分 × 2回
・レッスンの“一点”は「肩の脱力」だけ死守

2〜3日目
・足裏ボール継続
・一点に加えて「足圧の前後ロール」を微量に追加

4〜5日目
・脳トレ(右2拍・左3拍+首)2分 × 2セット
・レッスンは「お腹キープ+床圧ロール」の2点同時

6日目
・回転系で“押し方向の自己実況”をしながら練習(小声でOK)
・ズレを自分で検知→その場で修正

7日目
・一週間のメモを見返し、守れた率を自己採点
・次週の“一点”を更新


まとめ

・差を生む核は「固有感覚」と「小脳による自動化」
・まずは足裏の“入力”を起こす。感じて、言語化して、方向を選べる体にする
・自動化は“正しい形の反復”でのみ味方になる
・一点集中→多点同時、脳トレで分業処理を伸ばす

練習を受け止められる“器”を先につくる。これが上達最短ルートです。

 

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