こんにちは、大人バレエアカデミー™、バレエトレーニングディレクターの猪野です。

「日本人にはロシアメソッドは向かない」

バレエを習っていると、こういう言葉を聞くことがあります。

実際に、生徒さんからも聞かれました。

「他の先生に、日本人はロシアメソッドに合っていないと言われたのですが、猪野さんはどう思いますか?」

という質問です。

 

確かに、バレエを考える上でとても良いテーマです。

なぜなら、

この言葉をそのまま受け取ってしまうと、

「ロシアメソッドは日本人には合わない」

「だから、きちんとした教授法は必要ない」

「結局、先生の経験や感覚で教えればいい」

という方向に流れやすいからです。

 

でも、私はそうは思いません。

 

まず結論から言わせていただくと

「ロシアメソッドが日本人に向かない」

この言い方は、かなり雑です。

 

見るべきところは、

日本人かどうかではありません。

そのメソッドが、

誰のために作られたものなのか、ということ

そして、

そのメソッドを、

今、目の前にいる生徒さんに合わせて使えているのか。です。

 

 

ロシアメソッド、特にワガノワ・メソッドは、

世界的に知られているクラシックバレエの教授法です。

ワガノワ・バレエ・アカデミーの公式情報でも、

アグリッピナ・ワガノワは独自のバレエ教授法を作り、

その考え方をまとめた『Basic Principles of Classical Ballet』は、

バレエ技術と教授法に関する基準として扱われていると紹介されています。(vaganovaacademy.ru)

 

つまり、ロシアメソッドは、

ただの感覚論ではありません。

体系化された教授法です。

 

ただし、ここで必ず押さえなければいけない前提があります。

 

それは、

もともと職業ダンサーを育てるための教育だ、

ということです。

 

大人が趣味として楽しく踊るため。

健康づくりとしてバレエを始めるため。

未経験者が安心してレッスンに入るため。

最初から、そういう目的で作られたものではありません。

 

ロシアのバレエ教育は、

入口の時点でかなり厳しく選びます。

身体条件。

柔軟性。

音楽性。

運動能力。

表現力。

将来性。

そういったものを見たうえで、

バレエ学校に入れるかどうかが判断されます。

 

つまり、

「ロシア人だから向いている」

「日本人だから向いていない」

という話ではないのです。

 

そもそも本家のロシアでも、

誰でも入れる世界ではありません。

ワガノワ・バレエ・アカデミーの国際研修プログラムでも、

候補者はオーディションを受ける必要があり、

クラシックレッスンの動画提出も求められています。(vaganovaacademy.ru)

 

つまり、

最初から選抜を前提にした教育環境です。

ここを抜かして、

「日本人にはロシアメソッドは向かない」

と言ってしまうと、話がかなりズレます。

 

正確に言うなら、

ロシアメソッドは、

最初からバレエに向いている可能性が高い人を選び、

長い時間をかけて職業ダンサーに育てる仕組みです。

なので、ロシア教授法に照らし合わせるならば

ほとんどの人がそもそもバレエに向いてなんかないのです。

 

だから、

そのまま大人の趣味のバレエ教室に持ち込むと、

合わない部分が出てきます。

 

でもそれは、

日本人だから合わないのではありません。

目的が違うからです。

 

ここを間違えてはいけません。

プロを作る教育と、

大人が安全に上達するための教育は、

同じではありません。

 

プロを作る教育では、

できない人は残れない。

基準に届かない人は進めない。

身体条件が合わなければ、最初から選ばれない。

これは、

職業ダンサーを育てる世界では成立します。

舞台で仕事をする人を育てるわけですから、

当然、厳しい基準があります。

 

でも、

大人のバレエは違います。

大人のバレエで必要なのは、

「あなたは向いていません」

と落とすことではありません。

「今の身体なら、ここから始めましょう」

「この順番ならできます」

「ここまで戻れば、次に進めます」

と育てることです。

 

ここで大事になるのが、

「選別」と「育成」を分けることです。

 

ロシアのバレエ教育には、

選別の要素があります。

この基準に届く人だけを残す。

この条件に合う人だけを選ぶ。

この段階でできる人だけを次へ進める。

これは、プロ養成の世界では自然なことです。

 

でも、

大人のバレエ教室でそれをそのままやったら、

多くの人は苦しくなります。

身体を痛める人も出ます。

自信を失う人も出ます。

「自分にはバレエは無理なんだ」と思ってしまう人も出ます。

それは違います。

 

 

大人のバレエに必要なのは、

選別ではなく、育成です。

ロシアメソッドの中から、

「落とすための基準」ではなく、

「育てるための順番」を取り出す。

ここに価値があります。

 

教授法の良さは、

難しいことを根性でやらせることではありません。

何を先に教えるのか。

何を後に教えるのか。

どの動きが、どの動きの準備になるのか。

どの段階で、どの技術を入れるべきなのか。

 

この順番が見えることです。

バレエのレッスンで一番困るのは、

先生の気分で内容が変わることです。

今日は回転の気分。

今日はジャンプの気分。

今日はなんとなく難しいことをやりたい。

 

これでは、

生徒さんは何を積み上げているのか分かりません。

前回のレッスンが、

今日の何につながっているのか。

今日の練習が、

次の何に必要なのか。

それが見えないと、

生徒さんはただ先生についていくだけになります。

 

これでは、大人は上達しにくいです。

大人の身体は、

子どもの身体とは違います。

仕事があります。

疲労があります。

過去の運動経験も違います。

柔軟性も違います。

筋力も違います。

週に通える回数も違います。

 

だからこそ、

順番が必要です。

まず立つ。

次に軸を作る。

次に脚を出す。

次に戻す。

次に重心を移す。

次に片脚で支える。

次に方向を変える。

次に回転やジャンプへつなげる。

この順番を飛ばして、

いきなり難しいことをやらせても、

上達ではなく、

ただの崩れになります。

 

たとえば、

プリエが安定していない人に、

いきなりジャンプをたくさんやらせる。

片脚で立てない人に、

いきなりピルエットを回らせる。

骨盤が崩れている人に、

いきなり高い脚を要求する。

これは、上達ではありません。

身体に無理をさせているだけです。

 

もちろん、

たまたまできてしまう人もいます。

でも、それはその人に才能や身体条件があっただけです。

 

問題は、

できない人をどう育てるかです。

ここに、先生の実力が出ます。

才能のある人を伸ばすことは、

ある意味では簡単です。

 

その人は、

多少説明が雑でもつかみます。

見よう見まねでも形になります。

先生の感覚的な言葉でも、

身体で拾えます。

 

でも、

大人のバレエでは、そうはいきません。

多くの人は、

子どもの頃から毎日レッスンしてきたわけではありません。

身体が硬い。

筋力が足りない。

用語が分からない。

自分の身体がどう動いているかも、最初は分からない。

 

だから、

「もっと引き上げて」

「もっと脚を使って」

「もっと音を聞いて」

「もっと回って」

と言われても、

何をどうすればいいのか分からないのです。

 

そこで必要なのが、

分解です。

引き上げとは何か。

脚を使うとは何か。

軸とは何か。

重心はどこにあるのか。

どの筋肉を働かせるのか。

どこは余計に固めないのか。

 

これを、

言葉と身体の両方で整理する必要があります。

バレエの指導で大事なのは、

できる人の感覚をそのまま渡すことではありません。

できない人が、

 

どこで止まっているのかを見つけることです。

脚が上がらないのか。

骨盤が保てないのか。

軸足に乗れないのか。

肋骨が開いてしまうのか。

足裏で床を押せていないのか。

音に合わせる前に、動きそのものが整理できていないのか。

 

そこを見て、

必要な段階まで戻す。

これが育成です。

 

だから私は、

大人のバレエには教授法が必要だと思っています。

ただし、

そのままの教授法ではありません。

大人の身体に合わせた教授法です。

ロシアメソッドをそのまま押しつけるのではなく、

大人が安全に上達できるように、

解剖学と運動学の視点から調整する。

これが必要です。

 

本来なら1年で進む内容があったとしても、

大人なら3年かけてもいいわけです。

週1回の人には、

週1回の進み方があります。

週2回の人には、

週2回の進み方があります。

毎日レッスンできる子どもとは、

条件が違います。

 

ここを無視して、

「本来はこうだから」

と押しつけるのは危険です。

 

逆に、

「大人だから適当でいい」

というのも違います。

大人だからこそ、基礎が必要です。

大人だからこそ、順番が必要です。

大人だからこそ、身体を壊さない設計が必要です。

 

ここを飛ばすと、

その場では楽しくても、

上達にはつながりにくいです。

バレエっぽい振付をやって、

汗をかいて、

楽しかった。

それ自体は悪いことではありません。

 

でも、

どうせバレエをやるなら、

上手くなりたいじゃないですか。

 

そのためには、

身体が変わる順番で練習する必要があります。

 

ここで、「日本人にはロシアメソッドが向かない」

という言葉に戻ります。

この言葉の裏には、

もう一つ危ない問題があります。

 

それは、

勉強していないことの言い訳に使われることがある、

ということです。

もちろん、

ロシアメソッドを否定する先生が全員そうだ、

という話ではありません。

経験で教える先生の中にも、素晴らしい先生はいます。

現場でしか分からないこともあります。

長年見てきたからこそ分かることもあります。

 

ただ、

教授法をきちんと学ばずに、

「そんなものは日本人には合わない」

と言ってしまうのは、

かなり危ういです。

本当に信頼できるのは、学んだうえで判断できる人です。

ここは使える。

ここは大人には強すぎる。

ここは解剖学的に調整した方がいい。

ここは趣味の大人には必要ない。

そう判断できることが大事です。

 

 

学んでから選ぶのと、学ばずに否定するのは、

まったく違います。

ロシアメソッドが絶対に正しい。

そう言いたいわけではありません。

 

正しさは、いつもグラデーションです。

ロシアメソッドにも良いところがあります。

そのまま大人に使うと危ないところもあります。

経験で教える先生にも良いところがあります。

ただし、経験だけでは分解できないこともあります。

大事なのは、

どちらかを信仰することではありません。

 

目の前の生徒さんを上達させるために、

必要なものを選び、

必要な形に調整できるかどうかです。

 

スタジオを選ぶ時も、ここを見た方がいいです。

一番上手い生徒さんだけを見てはいけません。

上手い人がいることは素晴らしいです。

でも、

その人は最初から才能があったのかもしれません。

別の場所で基礎を作ってきたのかもしれません。

もともと身体条件が良かったのかもしれません。

 

本当に見るべきなのは、

全体です。

初心者の人が置いていかれていないか。

身体が崩れたまま、

難しいことをやらされていないか。

長く通っている人が、

変なクセを強めていないか。

先生の説明に順番があるか。

できない人に対して、

段階を戻して教えてくれるか。

ここを見てください。

 

大人がバレエを上達するために必要なのは、

才能の有無を決めつけることではありません。

 

必要なのは、

上達できる順番に出会うことです。

ロシアメソッドが日本人に向くか向かないか。

その問いだけでは、少し浅いです。

 

本当に大事なのは、

そのメソッドを、誰に、どの段階で、どのように使うのか。です。

 

大人バレエアカデミー™では、

ロシアメソッドを含むバレエ教授法の考え方を参考にしながら、

大人の身体に合わせてレッスンを組み立てています。

 

選別するためではありません。

育てるためです。

「できないなら向いていない」

ではなく、

「できるところまで戻って、そこから積み上げる」

という考え方です。

 

だから基礎を大事にします。

立ち方。

プリエ。

タンデュ。

重心移動。

片脚で立つ力。

身体を支える力。

音楽に合わせて動く力。

派手ではありません。というか地味です。

 

でも、

ここが崩れたまま難しいことをやっても、

本当の意味では上達しません。

バレエは、才能のある人だけのものではありません。

正しい順番で学べば、

大人でも身体は変わります。

踊りも変わります。

 

「日本人だから向かない」

「大人だから遅い」

「初心者だから無理」

そう決めつける必要はありません。

大事なのは、

自分に合った順番で学ぶことです。

 

そして、

その順番をきちんと示してくれる場所を選ぶことです。

ロシアメソッドが悪いのではありません。

日本人に向かないのでもありません。

使い方を間違えれば何でも危ないです。

 

ただし、

育成のために正しく使えば、

大人の上達にも役に立ちます。

 

感覚だけに頼らない。

才能だけに任せない。

基礎を飛ばさない。

身体に合わせて積み上げる。

これが、大人がバレエを長く、楽しく、

そして本当に上達していくために必要なことです。

 

大人バレエアカデミー™ではこんな哲学で

大人でもバレエが上手くなりたい人を応援するために作ったスタジオです。

物事が上手くなるためには基礎が大事

ここに共感していただける方は、ぜひ一度体験レッスンをお試しください。

 

 

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