こんにちは、大人バレエアカデミー™、バレエトレーニングディレクターの猪野です。
レッスンをしていると、同じ振付を踊っていても、きれいに見える人と、少し頑張っているように見える人がいます。
これは、脚がどこまで上がるか、何回転できるか、身体がどれくらい柔らかいかだけで決まるものではありません。
タンデュやプリエのような基本的な動きでも、その人の身体の使い方はかなり見えます。
特別難しいことをしていなくても、すっと立って、自然に脚が出て、動きが音楽の中につながっていると、それだけできれいに見えます。
一方で、先生から言われたことをきちんとやろうとしているのに、肩や首まで緊張してしまったり、脚を動かすたびに身体全体が揺れたりすると、どうしても一生懸命さのほうが目に入ります。
そういう人は、実際にもかなり頑張っているのだと思います。
膝を伸ばそうとして、つま先も伸ばして、ターンアウトも気にする。姿勢を保ちながら腕の位置も直して、顔の向きまで考えています。
大人からバレエを始めると、一度に考えなければいけないことが多いので、これはある程度仕方のないことです。
ただ、ある程度レッスンを続けているのに、いつも身体全体が大変そうに見えるのであれば、筋力が足りないからもっと頑張ればいい、という話ではないこともあります。
身体の使い方を少し変えたほうが、見た目も動きやすさも変わる場合があります。
大人は「言われたことをやろう」としすぎることがある
大人の生徒さんは、先生から言われたことをよく覚えています。
「膝を伸ばしてください」と言われたら、次のタンデュでは膝を意識します。
「肩が上がっています」と言われたら、今度は肩を下げようとします。
さらに「お腹を引き上げて」と言われたら、お腹にも意識を向けます。
その状態で腕がつき、顔がつき、音楽も聞かなければいけません。
最初のうちは、頭の中が忙しくなるのも当然です。
ただ、「膝を意識する」ということが、膝の周りを強く固めることになったり、「姿勢を保つ」が胸を張ることになったりすることがあります。
本人は先生の注意を無視しているわけではありません。むしろ、言われたことを真面目に直そうとした結果です。
レッスンでは、こういうことがよく起こります。
たとえば、膝を伸ばすように言われてから、急に太ももの前側が強く緊張するようになる人がいます。
確かに膝は伸びています。
ただ、その状態でタンデュをすると股関節まで動きにくくなり、脚を出すたびに骨盤が動いてしまう。
膝を直したはずなのに、今度は別のところに問題が出てきます。
そうなると、さらに骨盤を動かさないようにしようとして、お腹や背中にも緊張が増えていきます。
気がつくと、タンデュ一本出すだけなのに、身体のかなり広い範囲に筋力を使っています。
バレエではもちろん筋力が必要です。
ただ、使う必要のないところまで緊張させてしまうと、動きは重たくなります。
大人の方が「力を抜いてください」と言われてもよく分からないのは、このためでもあると思います。
本人からすると、先生に言われたことを守るために必要だと思って使っている筋力だからです。
単純に「力を抜いて」と言われても、どこをどう変えればいいのか分かりません。
タンデュでは、出す脚だけを見ても分からない
タンデュで右脚を前に出すとします。
生徒さん自身は、右脚がきれいに伸びているか、つま先まで使えているかを見ることが多いと思います。
もちろん、それも大事です。
ただ、右脚を自由に動かすためには、その前に左脚で身体を支えられていなければいけません。
ここが曖昧なまま右脚を動かすと、脚を出す瞬間に身体まで一緒に動きます。
身体が少し右へ流れ、それを戻すために上半身が動く。本人は右脚のことを考えているので、肩や頭の位置が動いたことには気づいていない場合もあります。
この動きがタンデュのたびに起こると、一回一回身体を立て直しているように見えます。
一生懸命さが目立つのは、こういうときです。
以前、脚を出すたびに上半身も少し動いてしまう方がいました。
つま先もしっかり伸ばそうとしていましたし、膝も意識していました。
でも、脚を出すことに集中していたので、軸脚に体重が移るのが少し遅れていました。
そこで、出す脚のことはいったんあまり考えず、脚を出す前に軸脚の上に立つことを確認してもらいました。
脚を高くしたわけでも、つま先をさらに伸ばしてもらったわけでもありません。
それでも、タンデュの見え方はかなり変わりました。
身体が揺れなくなると、今まで隠れていた脚のラインも見えやすくなります。
バレエでは、動かしている場所だけを直しても変わらないことがあります。
タンデュなら脚を出す前、アダージオなら脚を上げ始める前、ピルエットなら回り始める前の状態が、その後の動きにかなり影響します。
ピルエットでも、回る前に起きていることが大きい
ピルエットが安定しないと、「回り方」に原因があると思いやすいです。
もっと腕を早く閉じたほうがいいのか、顔をもっと早くつけたほうがいいのか、勢いが足りないのかと考えます。
もちろん、それらが原因になることもあります。
ただ、レッスンで見ていると、回転が始まる前にすでに崩れていることがあります。
プリエで身体が少し後ろへ流れていたり、軸脚側に十分体重が乗っていなかったりした状態から回ろうとすると、そのずれを回転中に修正しなければいけません。
そうすると、腕を強く使ったり、上半身を急いで起こしたりして、身体全体で回ろうとします。
本人としては、回るために必要なことをしている感覚だと思います。
ただ、見た目としてはかなり頑張っているように見えます。
回転の前を整えて、立つ場所を先に決めてもらうだけで、急に回転が静かになることがあります。
回る勢いを増やしたわけではありません。
むしろ以前より勢いをつけていないのに、安定することがあります。
こういう経験をすると、「技を成功させるためには、その瞬間をもっと頑張ればいいわけではない」ということが少しずつ分かってきます。
バレエには、このような動きがたくさんあります。
ジャンプでも、空中で何とかしようとしても、床を離れる前のプリエや重心が崩れていれば修正できることは限られます。
アダージオで脚を高く上げようとしても、軸脚で立てていなければ、上半身を傾けながら高さを作ることになります。
結果だけを見ると、「脚が低い」「回れない」「ジャンプが低い」と感じますが、その少し前を見ると、原因が別のところにあることは珍しくありません。
「きれいにしよう」として固くなる
大人の方に多いのが、形をきれいにしようとした結果、身体が固くなることです。
腕でもよくあります。
アラセゴンの腕をきれいに見せようとして、肘を落とさないようにしながら手先まで伸ばしていくと、腕全体にかなり筋力を使ってしまうことがあります。
その位置で止まっている間は、それほど気にならないかもしれません。
ただ、そこからアンナヴァンやアンオーへ動こうとすると、腕全体が固まっているので、動き出しにぎこちなさが出ます。
腕の位置を保つことだけを考えるのではなく、背中から腕までのつながりを保ったまま動ける状態にしておくと、ポール・ド・ブラはかなり変わります。
膝でも同じようなことが起こります。
膝を伸ばすことばかり気にすると、太ももの前側を強く使って固定することがあります。
その状態では、膝は曲がっていなくても、股関節から脚を動かしにくくなります。
バレエで求められる「伸びている感じ」は、関節を動かないように固めることとは違います。
股関節から脚が続いていて、膝を通り、足先まで方向がある。
その中で膝も伸びています。
一部分だけを頑張って形にすると、その場所は正しくなっても、身体全体のつながりが失われることがあります。
姿勢を良くしようとして、動けない姿勢を作ってしまう
バレエを始めると、普段より姿勢を良くしようとする方が多いです。
背中を伸ばして、胸を上げて、きれいに立とうとします。
ところが、胸を上げようとして肋骨が前に出たり、腰が反ったりすることがあります。
その姿勢を崩さないために腹部を固めると、今度は呼吸が浅くなったり、股関節が動かしにくくなったりします。
鏡の前で止まっているときには、それなりに姿勢が良く見えるかもしれません。
でも、バレエはその姿勢のまま動かなければいけません。
プリエをしたときに腰がさらに反ってしまったり、タンデュをした途端に骨盤が動いたりするのであれば、止まった形だけを作っている可能性があります。
立ち方を直すときには、静止した状態だけではなく、そのままプリエやタンデュができるかを見る必要があります。
身体をきれいに見せるために作った姿勢が、次の動きを邪魔してしまうこともあるからです。
「きれいに立つ」というと、形を作るイメージを持ちやすいですが、実際には動く準備ができた状態で立つ必要があります。
きれいに見えるかどうかは、形と形の途中にも出る
バレエにはいろいろなポジションがあります。
腕の位置も決まっていますし、アラベスクやアティテュードにも形があります。
レッスンでは、当然その形を覚えます。
そのため、正しい位置まで身体を持っていくことに意識が向きやすくなります。
アンナヴァンからアンオーへ腕を動かすときも、「次はアンオー」と考えるので、早くその位置へ持っていこうとします。
到着した位置は合っていても、そこまでの動きが急に速くなったり、途中で肩が上がったりすることがあります。
私がレッスンで気になるのは、完成した位置だけではありません。
アンナヴァンからアンオーへ行く途中で腕がどう通っているか、肘の高さがどう変わるか、身体まで一緒に持ち上がっていないかといったところも見ます。
ここが自然になると、ポール・ド・ブラ全体がかなり変わります。
バレエを踊っている時間の大部分は、完成したポーズで止まっている時間ではありません。
次の形へ向かって身体が動いています。
だから、途中がぎこちないと、完成したポジションがどれだけ正しくても、全体としては硬く見えます。
反対に、脚の高さや腕の位置に多少課題が残っていても、身体の動きが途中で切れずに音楽の中につながっていると、踊りとして自然に見えることがあります。
アダージオでは「早く形を作る」人が多い
アダージオでも、大人の方の真面目さがよく出ます。
たとえば、4カウントで脚を上げる動きがあったとします。
振付を間違えないようにしようとすると、早めに脚を上げ終わりたくなります。
1で動き始めて、2くらいで目的の高さまで持っていき、残りの3、4はその位置を保つ。
そうすれば次の動きに遅れにくいので、安心はできます。
ただ、音楽の中で見ると、脚を上げる部分だけが少し急いで見えます。
4カウントあるなら、その4カウントをどう使うかも踊りの一部です。
もちろん、毎回4まで均等な速度で上げればいいという話ではありません。
振付や音楽によって違います。
ただ、正しい形へ早く到着することばかり考えていると、途中の時間がなくなってしまいます。
これは腕でも同じです。
「ここでアンオー」と分かった瞬間に腕を上げてしまうと、音楽がまだ続いているのに、身体だけ先に到着します。
バレエを見ていてきれいだと感じるときには、完成した形だけではなく、その形に向かう時間も見ています。
大人の方はどうしても間違えないことを優先しやすいので、音楽を最後まで使うところは後から身につけていくことが多いです。
脚は高いほうがきれい、とは限らない
アダージオで脚を上げると、「もっと高くしたい」と思う方は多いと思います。
高く脚が上がるのは、もちろん一つの技術です。
ただ、高く上げれば上げるほど踊りがきれいに見えるわけではありません。
たとえば、70度まで脚を上げると骨盤が大きく傾いてしまう人がいたとします。
軸脚も曲がり、上半身も横へ倒れてしまう。
それでも本人は、脚を70度まで上げられたというところを見ています。
そこで少し脚を低くしてもらうことがあります。
50度くらいにして、軸脚の上に立ったまま、骨盤と上半身を保つ。
すると、脚の高さは下がったのに、全体としてはずっときれいに見えることがあります。
生徒さんからすると、少し物足りないと思います。
もっと高く上げられるのに、わざわざ低くするからです。
でも、崩れた状態で高さだけを何度も練習すると、その身体の使い方を覚えてしまいます。
「脚を高くする」という動作と一緒に、骨盤を傾けることや、軸脚を曲げることまで身体に入ってしまう。
まずは身体を保てる高さの中できちんと動けるようにして、そこから少しずつ範囲を広げていくほうがいい場合があります。
大人からバレエを始める方は、柔軟性や脚の高さを気にすることが多いですが、見た目は高さだけでは決まりません。
今持っている可動域の中でも、かなり変えられることがあります。
つま先も、足先だけでは変わらない
つま先についても、同じようなことがあります。
「つま先をもっと伸ばして」と言われると、足首から先だけを強く伸ばそうとする方がいます。
足指までぎゅっと使い、足先だけで形を作ろうとします。
でも、脚のラインは股関節から始まっています。
股関節から膝、足首、足先までが一つの方向につながっている中で、最後につま先があります。
膝が緩んだ状態で足首だけを強く伸ばしても、脚全体としてはきれいに見えません。
反対に、足先に課題が残っていたとしても、股関節から脚全体の方向がきちんと見えると、以前より長く見えることがあります。
つま先を使う筋力はもちろん必要です。
ただ、その部分だけを意識しすぎて脚全体とのつながりがなくなると、かえって不自然になることがあります。
こういうところは、自分で鏡を見ているだけでは分かりにくいところです。
本人は「つま先を伸ばした」という感覚が強いので、そこに意識が向きます。
先生側は、足先だけではなく、そこへつながる脚全体を見ています。
振付を間違えたくないと、動きが小さくなる
大人の方を教えていてよく感じるのが、振付が分からなくなったときの動きです。
大人は、間違えたくないという気持ちが強い人が多いと思います。
順番が少し分からなくなると、いったん動きを小さくして、先生や周りを確認します。
確認できたら、そこから次の動きに入ります。
すると音楽から少し遅れます。
今度は遅れを取り戻そうとして、次の動きを急ぎます。
これを繰り返すと、全体としてかなり忙しく見えます。
本人は手を抜いているわけではなく、ついていこうとしているのだと思います。
でも、頭の中で順番を確認し続けている間は、身体を大きく使う余裕がありません。
目線も先生や周りへ向きやすくなります。
腕の位置も小さくなります。
この状態の人に「もっと大きく踊ってください」と言っても、すぐには変わらないことがあります。
小さく踊ろうとしているのではなく、振付を確認しながら動いているからです。
ここで役に立つのが、毎回やっている基本の練習です。
プリエやタンデュをするときに、一つ一つ手順を考えなくても身体が動くようになってくると、アンシェヌマンの中で使える余裕が増えます。
その余裕を音楽や顔の方向、腕の使い方に回せるようになります。
基礎を繰り返す意味は、単にプリエやタンデュが上手になることだけではありません。
踊りの中で、それらを考えなくても使えるようにしていく意味もあります。
難しくなると、上半身に緊張が出やすい
センターで少し難しいアンシェヌマンになると、肩が上がったり、目線が下がったりすることがあります。
順番を考えることに集中していると、顔もかなり真剣になります。
脚のことを考えている本人は、自分の肩や首がどうなっているかまでは気づきにくいと思います。
ただ、踊りを見る側には上半身がよく見えます。
下半身ではかなりきちんと動けていても、首周りに緊張があり、肩まで上がっていると、身体全体が大変そうに見えます。
プロのダンサーが難しい動きをしていても簡単そうに見えるのは、下半身で筋力を使っていないからではありません。
実際にはかなり強く床を押していますし、体幹や脚も使っています。
それでも、その緊張が身体全体に広がらず、上半身や顔を動かせる余裕が残っています。
大人バレエでも、基本の動きが安定してくると、こうした余裕は少しずつ出てきます。
最初は脚を間違えないことで精一杯だった人が、少し顔をつけられるようになる。
先生を見ながら踊っていた人が、正面を向いたまま動けるようになる。
こういう変化でも、踊りの印象はかなり変わります。
目線は思っている以上に見た目を変える
振付に不安がある人は、目線が下がることがあります。
足の位置や周りの人を確認したいので、自然と視線が近くなります。
目線が下がると、頭の位置も少し前へ出やすくなります。
そこから首が短く見えたり、胸が閉じたりすると、上半身全体が小さく見えます。
顔だけを無理に上げても不自然ですが、身体の方向と一緒に目線を使えるようになると、かなり印象が変わります。
身体そのものの大きさは変わっていません。
それでも、目線が遠くへ向くだけで空間の使い方が変わります。
大人の方は脚の高さや柔軟性を気にすることが多いですが、きれいに見えるかどうかには、こうした上半身の使い方もかなり関係しています。
特に舞台では、脚だけを見ているわけではありません。
身体全体を見ます。
だから、脚をあと10度高くするより、顔や腕が自然につながるようになったほうが印象が変わることもあります。
呼吸が止まると、次の動きが苦しくなる
片脚で立とうとしたときや、脚を高く上げようとしたときに、息を止める人もいます。
何か難しいことをするときに息を止めるのは、バレエに限ったことではありません。
身体を安定させようとして、無意識に起こることがあります。
一瞬の動作であれば、それでできてしまうこともあります。
ただ、バレエは動きが続きます。
一つの動きで身体を固めてしまうと、次の動きへ行くときに、その緊張を一度ほどかなければいけません。
そこで動きが少し遅れたり、急に息を吐いたりします。
アダージオのようにゆっくりした動きでは、この変化が見えやすいです。
身体を支える筋力は使いながら、呼吸まで止めない。
これは簡単ではありません。
でも、練習を続けて、立つことや脚を動かすことに以前ほど多くの筋力を使わなくなると、呼吸にも少し余裕が出てきます。
その余裕が、外からは自然さとして見えることがあります。
ずっと同じ強さで踊ると、頑張っている感じが残る
大人の方は、最初から最後まできちんとやろうとします。
それ自体はいいことなのですが、一つのアンシェヌマンの中で身体をずっと同じ強さで使っていることがあります。
最初のプリエから最後まで、ずっと身体全体が緊張している。
それだと、途中に少し楽な動きがあっても筋力を使い続けることになります。
結果として、見ている側には「ずっと頑張っている」という印象が残ります。
音楽には強いところもあれば、少し抜けるところもあります。
動きも同じで、いつも同じ筋力で身体を固定しておく必要はありません。
必要な瞬間にはしっかり床を押します。
脚を保つために筋力を使う場面もあります。
その後まで同じ緊張を残してしまうと、次の動きがしにくくなります。
上手な人ほど何もしていないように見えることがありますが、実際には身体の中で使う筋力を細かく変えています。
そこが見た目の自然さにつながっています。
大人から始めたら、最初は頑張って見えてもおかしくない
ここまで書いてきたことに、いくつも心当たりがある人もいると思います。
でも、大人からバレエを始めたのであれば、最初から身体の全部をうまく使い分けられなくても当然です。
膝を伸ばすことを覚えたばかりなら、そこにかなり意識を向けます。
片脚で立つことに不安があれば、身体全体を使ってバランスを取ろうとします。
振付を覚えるので精一杯なら、顔や目線まで考えられません。
最初は、それでいいと思います。
ただ、レッスンを続ける中で、以前は身体全体でやっていたことを少しずつ整理していく必要があります。
タンデュをするたびに肩まで動かなくてもいい。
ルルベをするたびに足の指を強く握らなくてもいい。
脚を上げるたびに腰を反らなくてもいい。
そういうことが一つずつ分かってくると、身体の見え方は変わります。
ここで必要なのは、「もっと頑張る」のとは少し違います。
すでにできるようになった動きを、もっと無理の少ないやり方でできるようにしていくことです。
身体の条件が大きく変わらなくても、踊りは変わる
「身体が硬いからきれいに踊れない」
「脚が短いからバレエらしく見えない」
「甲がないから仕方がない」
という話を聞くことがあります。
身体の条件に個人差があるのは事実です。
大人から始めれば、子どもの頃からやっている人とは違う部分もあります。
ただ、レッスンをしていると、身体の条件がほとんど変わっていないのに、以前よりずっときれいに見えるようになる人がいます。
軸脚の上に立てるようになって、脚を出すたびに身体が揺れなくなる。
腕を動かすときに肩まで固めなくなる。
アダージオで脚を少し低くしたことで、上半身を保てるようになる。
振付に慣れて、目線が床から離れる。
どれも、脚の長さや骨格そのものが変わったわけではありません。
それでも、以前よりバレエらしく見えるようになります。
大人からバレエを始めた方にとって、これはすごく大事だと思っています。
身体の条件の中には変えにくいものもあります。
そこばかりを気にしていると、「自分はきれいには踊れない」と考えてしまいます。
でも、実際には使い方で変わるところがかなりあります。
タンデュ一つでも、ある日見え方が変わる
長く教えていると、何度もやってきたタンデュが、ある日急にきれいに見えることがあります。
本人はいつも通りやっているつもりかもしれません。
でも、以前は脚を出すたびに少し揺れていた身体が、ほとんど動かなくなっている。
前は脚を伸ばすことに集中して肩まで緊張していたのに、その緊張が少なくなっている。
足先までの方向も前より自然に見える。
一つ一つを別々に直していたものが、ある程度つながってくると、こういう変化が出てきます。
私は、難しい技ができたときだけが上達だとは思っていません。
いつもやっているタンデュが前より自然になったり、プリエから次の動きへ移るときの余計な動きがなくなったりすることも、かなり大きな上達です。
むしろ、そういう基本的な動きが変わると、その後に出てくるいろいろなステップも変わってきます。
「頑張ることをやめる」のではない
ここまで読むと、バレエは頑張らないほうがいいのかと思うかもしれません。
そういう話ではありません。
筋力も必要ですし、反復練習も必要です。
できなかった動きをできるようにするには、ある程度の負荷も必要です。
ただ、上達するにつれて、同じ動きをするために必要な筋力の使い方は変わっていきます。
最初は身体の広い範囲を緊張させないとできなかったことが、少しずつ必要な場所だけでできるようになります。
以前はタンデュ一回でもかなり意識しなければいけなかったのに、いつの間にか考えなくても脚を出せるようになる。
その分、音楽や顔の方向を考えられるようになります。
ピルエットでも、最初は「回る」ことだけで精一杯だった人が、立つ場所を考えられるようになり、やがて腕や顔まで使えるようになります。
上達すると、やることが減っているように見えることがあります。
実際には、身体の中でできることが増えたので、余計なことをしなくてよくなっています。
「頑張っている人」から、少しずつ「踊っている人」に見えてくる
大人からバレエを始めた方の変化を見ていると、最初は振付についていくことだけで精一杯だった人が、少しずつ変わっていきます。
先生を見続けなくても動けるようになる。
脚の順番を考えながらでも、顔をつけられるようになる。
以前より肩が上がらなくなる。
タンデュを出すときに身体が動かなくなる。
本人からすると、小さな変化かもしれません。
脚が急に高く上がったわけでも、何回転もできるようになったわけでもないので、上達した実感が薄いこともあります。
でも、こういう変化が積み重なると、外から見たときの印象はかなり変わります。
一生懸命振付をこなしている感じから、少しずつ「踊っている」ように見えるようになります。
私は、大人バレエではこういう上達ももっと見てほしいと思っています。
脚の高さや回転数のように数字では分かりません。
鏡を見ても、自分では気づきにくいことがあります。
それでも、以前より少ない無駄で身体を使えるようになっているのであれば、それはきちんと上達しています。
もし、自分の踊りを見て「なんだか一生懸命に見えるな」と感じたとしても、単純に筋力が足りない、練習が足りないと考えなくてもいいと思います。
すでに十分頑張っているのに、必要のないところまで身体を緊張させているだけかもしれません。
脚を動かす前に立つ位置を変えるだけでよくなる場合もあります。
少し脚を低くすることで、身体全体がきれいになることもあります。
腕の筋力をさらに使うのではなく、肩や背中とのつながりを変えたほうが自然になることもあります。
こうしたことは、一人ではなかなか気づきません。
自分では「ここを頑張っているからできている」と思っている部分が、実は動きを邪魔していることもあるからです。
レッスンを続けていると、以前は身体全体で頑張らないとできなかったことが、少しずつ普通にできるようになります。
その頃になると、自分ではそれほど頑張っている感覚がないのに、以前よりきれいに見えることがあります。
私は、大人バレエで「きれいに見える」というのは、こういう変化の積み重ねだと思っています。
身体の条件だけではなく、どこに筋力を使い、どこを自由にしておくのか。動く瞬間だけではなく、その少し前に身体がどうなっているのか。
そうしたことが少しずつ身体に入ってくると、同じプリエやタンデュでも見え方が変わってきます。
何年も同じ基礎を繰り返しているのに、ある日、以前とは違って見える。
バレエを続けていると、そういうことがあります。




