「で、これって何時間くらいあるの?」
公演のチラシを知人に渡したとき、こう聞き返されたことはないでしょうか。
舞台に関わっている人なら、一度は経験があるはずです。
チラシには、主演ダンサーの名前が大きく載っています。
私たちにとっては、それこそがいちばん伝えたい情報でした。
けれど相手が最初に知りたかったのは、誰が踊るかではなく、どれくらい時間がかかるかでした。
この小さなすれ違いは、決して珍しいものではありません。
むしろ、公演の案内が抱えている問題を、とてもよく表していると思います。
私たちは、自分が知っていることを前提に案内を書いてしまいがちです。
そして、その前提を共有していない人に案内が届いていないことには、なかなか気づけません。
初めて舞台を観る人に届く案内に必要なのは、配役情報に「作品」「時間」「見どころ」の三つを添えることです。
当たり前のことのように聞こえるかもしれません。
けれど、実際の告知やチラシを見直してみると、この三つがそろっているものは意外なほど少ないのです。
名前は「知っている人」への合図
公演の告知は、多くの場合こんな形をしています。
『ジゼル』全2幕
ジゼル:○○ アルブレヒト:△△
ミルタ:□□ ヒラリオン:◇◇
10月○日(土)14:00開演
バレエを観慣れた人にとっては、これで十分です。
『ジゼル』と聞けば、第1幕の村の場面と、第2幕の月明かりの森がすぐに思い浮かびます。
誰がジゼルを踊るのかがわかれば、その人の踊りの特徴から舞台の姿まで想像できます。
ミルタ役の名前を見て「あの人の跳躍なら迫力があるだろう」と楽しみにする人もいるでしょう。
配役情報は、知っている人にとっては、想像をふくらませるための豊かな手がかりなのです。
けれど、初めて劇場に行く人にとってはどうでしょうか。
ジゼルが人の名前なのか作品の名前なのかも、はっきりしないかもしれません。
アルブレヒト、ミルタ、ヒラリオンと、知らないカタカナが並んでいるだけに見えるかもしれません。
その横に書かれたダンサーの名前も、当然ながら初めて目にするものです。
つまりこの告知は、初めての人にとって、知らない言葉と知らない名前の一覧になってしまっているのです。
配役情報は、すでにその世界を知っている人への合図です。
合図というのは、意味を知っている人同士でしか通じません。
これから入ってこようとしている人の「よくわからないけれど、大丈夫かな」という不安には、何ひとつ答えていないのです。
初めての人が知りたい三つのこと
では、初めて舞台を観ようとしている人は、何を知りたいのでしょうか。
細かく挙げればきりがありませんが、大きくまとめると三つになります。
何のお話なのか。
どれくらい時間がかかるのか。
どこを観ればいいのか。
この三つは、どれも観に行くかどうかを決める前に浮かぶ疑問です。
答えが見つからなければ、「よくわからないから、今回はやめておこう」となってしまうかもしれません。
案内の役割は、この「わからない」をひとつずつ減らして、劇場までの道のりを歩きやすくすることにあります。
一つめの柱:作品をひとことで伝える
バレエにはセリフがありません。
物語は、踊りと音楽と演技だけで進んでいきます。
これはバレエのいちばんの魅力ですが、初めての人にとってはいちばんの壁にもなります。
物語の骨組みを知らないまま観ると、目の前で何が起きているのかを追うだけで精一杯になってしまいます。
いま踊っているのは誰なのか。
なぜこの二人は悲しそうなのか。
この場面は夢なのか現実なのか。
そんなことを考えているうちに、踊りそのものを味わう余裕がなくなってしまうのです。
反対に、ひとことでも筋を知っていれば、観る側には余裕が生まれます。
「この人がこれから裏切られるのだな」とわかっていれば、その人の踊りの明るさが、かえって切なく見えてきます。
物語を知っていることは、ネタバレではなく、楽しむための準備なのです。
実際、バレエを長く観ている人ほど、あらすじを知ったうえで劇場に行きます。
とはいえ、あらすじを長々と書く必要はありません。
大切なのは、ひとことで作品の性格が伝わることです。
たとえば、こんなふうに書けます。
- 『くるみ割り人形』:クリスマスの夜、少女がお菓子の国を旅する夢の物語
- 『白鳥の湖』:呪いで白鳥に姿を変えられた姫と、王子の恋の物語
- 『ジゼル』:恋に裏切られた村娘が、精霊になってなお恋人を守る物語
- 『眠れる森の美女』:呪いで百年の眠りについた姫が、王子のくちづけで目覚めるおとぎ話
- 『ドン・キホーテ』:町娘と床屋の青年が、親の反対を乗り越えて結ばれる陽気な恋の物語
どれも一行です。
けれど、この一行があるだけで、楽しい作品なのか悲しい作品なのか、子ども向けなのか大人向けなのか、ある程度の見当がつきます。
題名からは想像しにくいことを、ひとこと添えておくのも親切です。
たとえば『ドン・キホーテ』という題名から、ドン・キホーテ本人が主人公だと思い込んでいる人は少なくありません。
実際の主役は町娘キトリと恋人バジルで、ドン・キホーテはどちらかといえば物語を彩る脇役です。
そのことを知らずに観ると、「主人公があまり踊らない」と戸惑ってしまうかもしれません。
余裕があれば、もう一歩踏み込んで、作品の雰囲気が伝わる一文を足すのもおすすめです。
「前半は明るい村の祭り、後半は月明かりの森の幻想の世界へ」
「華やかな舞踏会と、静かな湖のほとりを行き来する物語」
このように場面の移り変わりを示しておくと、観る人は舞台の地図を手にした状態で劇場に入ることができます。
作品を説明するときに気をつけたいのが、専門用語です。
私たちにとって「グラン・パ・ド・ドゥ」や「ヴァリエーション」は、毎日のように使う言葉です。
けれど初めての人にとっては、作品名の次に出てくる、また別の知らないカタカナにすぎません。
専門用語を使うなら「主役の二人が踊る見せ場」のように言い換えるか、すぐ後ろに短い説明を添えるようにしたいところです。
案内を書き終えたら、一度「バレエを知らない人の目」で読み返してみることをおすすめします。
自分では当たり前だと思っていた言葉が、意外なほどたくさん紛れ込んでいることに気づくはずです。
二つめの柱:時間をはっきり書く
冒頭の「何時間くらいあるの?」は、まさにこの柱に関わる質問です。
意外に思われるかもしれませんが、初めての人にとって、時間はとても大きな関心事です。
舞台に慣れた人は、だいたいの上演時間を経験で知っています。
けれど初めての人には、1時間で終わるのか、4時間かかるのか、まったく見当がつきません。
実際、バレエの上演時間は作品によってかなり違います。
『ジゼル』のような2幕の作品なら、休憩を含めて2時間前後のことが多いでしょう。
一方、『眠れる森の美女』のような大作になると、休憩を含めて3時間近くかかることも珍しくありません。
同じ作品でも、演出や休憩の取り方によって長さは変わります。
だからこそ、「この公演は何時に終わるのか」を、案内する側がはっきり書いておく必要があるのです。
時間の案内で最低限押さえておきたいのは、次の四つです。
- 開場時刻と開演時刻
- 全体の上演時間
- 休憩の回数と長さ
- 終演の予定時刻
とくに大切なのは、終演の予定時刻です。
開演時刻は書いてあっても、終演時刻が書かれていない告知はたくさんあります。
けれど観る側にとっては、終わる時間がわからなければ、その日の予定を立てられません。
「16時ごろ終演予定」と一行あるだけで、夕食の約束も、帰りの電車も、子どものお迎えも、安心して組み立てられるようになります。
休憩についても、ひとこと添えておくと親切です。
休憩があるとわかっていれば、お手洗いのことも、途中で飲み物を飲むことも、事前に計算できます。
小さな子どもを連れてくる家族にとっては、休憩の有無が「連れていけるかどうか」を決める材料になることもあります。
「休憩1回(20分)」と書くだけで、観に行く決心がつく人がいるのです。
開場時刻にも、ちょっとした意味があります。
初めての人にとって、開場から開演までの時間は、劇場の雰囲気に慣れるための大切な時間です。
ロビーを歩き、プログラムを手に取り、自分の席を確かめて、ゆっくり座る。
「開演の20〜30分前にはお越しいただくと、落ち着いてご覧いただけます」と書き添えておけば、慌ただしく席に着いて息を整える間もなく幕が上がる、ということも避けられます。
三つめの柱:見どころで視線を導く
初めて舞台を観る人は、どこに注目すればいいのかがわかりません。
舞台の上では、たくさんのダンサーが同時に動いています。
音楽も、衣装も、照明も、舞台装置も、すべてが一度に目に飛び込んできます。
どこを観ればいいのかわからないまま時間が過ぎ、気がつけば幕が下りていた、ということも起こりえます。
そこで役に立つのが、「ここだけは観てほしい」という場面をひとつ示すことです。
たくさん並べる必要はありません。
むしろ、ひとつかふたつに絞ったほうが、観る人の記憶に残ります。
たとえば『ジゼル』なら、第2幕で白い衣装の精霊たちが一斉に踊る群舞を挙げられます。
何十人ものダンサーの腕の角度や足の運びが、ぴたりと揃う瞬間があります。
その美しさは、映像ではなかなか伝わらない、劇場ならではのものです。
「白い衣装の群舞に注目してください」と一言あれば、観る人はその場面が来たとき、自然と目を凝らすはずです。
『白鳥の湖』なら、第3幕の黒鳥の踊りが代表的な見どころです。
黒鳥が片脚で回り続ける連続回転は、多くの観客が息をのむ場面です。
同じダンサーが、湖の場面では儚い白鳥を、舞踏会の場面では妖しい黒鳥を踊り分けることも、知っていれば見方が変わります。
「同じ人が正反対の二役を踊ります」とひとこと添えるだけで、観る人は二つの場面を見比べる楽しみを手に入れます。
主役二人の踊りの構成も、初めての人に伝えておくと喜ばれます。
クラシックバレエでは、主役の男女が踊る見せ場が、決まった流れで組み立てられていることがよくあります。
二人で踊るゆったりした部分のあと、それぞれが一人ずつ踊る部分があり、最後にまた二人で華やかに踊って締めくくる、という流れです。
この流れを知っていると、「いまは男性の見せ場だな」「次は女性の番だな」と、舞台の進み方がつかみやすくなります。
見どころの案内は、観る人の視線をそっと導くガイドです。
何をどう観ればいいかがわかると、初めての舞台でも「ちゃんと観られた」という手ごたえが残ります。
そしてその手ごたえこそが、「また観てみたい」という気持ちにつながっていくのです。
劇場での過ごし方も、ひとこと添える
三つの柱に加えて、余裕があれば触れておきたいのが、劇場での過ごし方です。
どんな服装で行けばいいのか。
拍手はいつすればいいのか。
遅れて着いたら入れてもらえるのか。
これらは作品の内容とは関係がないぶん、つい案内から抜け落ちてしまいがちです。
けれど、初めての人にとっては、劇場に足を運ぶかどうかを左右する、意外に大きな心配ごとです。
服装については、「普段着で大丈夫です」と一言あるだけで、ずいぶん気が楽になります。
バレエというと、ドレスやスーツで行かなければならないような印象を持っている人は少なくありません。
実際には、多くの公演で、普段より少しきれいめの服装くらいで十分です。
そのことを知らないまま、「着ていく服がないから」とためらっている人もいるかもしれないのです。
拍手については、「踊りがひと区切りついたところで、周りに合わせて拍手してください」くらいの案内で十分です。
主役二人の見せ場でも、一人ずつの踊りが終わるたびに拍手が起こります。
いつ拍手をすればいいのかわからず、緊張して舞台に集中できないのは、もったいないことです。
見事な踊りのあとに拍手が起こるのはごく自然なことだと伝えておけば、初めての人も安心して舞台に身をゆだねられます。
遅刻については、多くの劇場で、上演中は客席への入場が制限され、休憩や場面の切れ目まで待つことになります。
これを知らないまま開演ぎりぎりに着いて、最初の場面を観られなかったとしたら、せっかくの初めての舞台が残念な思い出になってしまいます。
「開演に遅れると、しばらく入場をお待ちいただく場合があります」と一行添えておくことは、観る人を守ることでもあるのです。
同じ公演を、こう案内してみる
冒頭の告知に、三つの柱と劇場での過ごし方を加えると、こうなります。
『ジゼル』――恋に裏切られた村娘が、精霊になってなお恋人を守る物語
前半は明るい村の祭り、後半は月明かりの森に精霊たちが舞う幻想の世界へ。
がらりと変わる二つの景色をお楽しみください。
上演時間:約2時間(休憩1回)
13:15開場/14:00開演/16:00ごろ終演予定
見どころ:第2幕、白い衣装の精霊たちが一斉に踊る群舞。
何十人もの動きがぴたりと揃う瞬間は、バレエならではの美しさです。
出演:村娘ジゼルを踊るのは○○。
素朴な少女が裏切りを知り、心が壊れていく第1幕の終わりは、踊りと演技の両方が問われる名場面です。
身分を隠して村を訪れる貴族アルブレヒトは△△。
精霊たちの女王ミルタは□□、ジゼルに思いを寄せる森番ヒラリオンは◇◇が演じます。
服装は普段着で大丈夫です。
開演に遅れると、しばらく入場をお待ちいただく場合があります。
配役は、ちゃんと残っています。
削ったものは何もありません。
足したのは、作品をひとことで表す一行と、時間の情報と、見どころの一文と、役柄の説明と、劇場での過ごし方の二行だけです。
それでも、伝わる相手は大きく変わります。
最初の告知は、バレエを知っている人にしか届きませんでした。
書き直した告知は、バレエを知らない人にも、何が観られて、何時に終わって、どこを楽しめばいいのかを伝えています。
そして、知っている人にとっても、決して読みにくくはなっていません。
初めての人に向けた工夫は、慣れた人の楽しみを奪うものではないのです。
名前を「物語の中の人」として紹介する
書き直した告知では、ダンサーの名前を役柄と結びつけて紹介しています。
「ジゼル:○○」という書き方は、情報としては正確です。
けれど初めての人にとっては、知らない役名と知らない人名の組み合わせでしかありません。
一方、「村娘ジゼルを踊るのは○○」と書けば、その人が舞台で何をするのかが伝わります。
さらに「心が壊れていく第1幕の終わりは名場面です」と続ければ、その人のどこを観ればいいのかまでわかります。
こうして紹介された名前は、初めての人の中で「物語の中の人」として記憶に残ります。
観終わったあと、別の公演のチラシで同じ名前を見かけたとき、「あのジゼルの人だ」と思い出してもらえるかもしれません。
そのとき、その名前はもう知らないカタカナではなく、自分が観た舞台の記憶と結びついた名前になっています。
ダンサーのファンは、こういうところから生まれます。
名前だけを並べても、知らない人の心には残りません。
けれど、物語と一緒に覚えた名前は、次の公演へと人を連れていく力を持っています。
名前を大切にしたいからこそ、名前の前に物語を置く。
これは、ダンサーを軽く扱うことではなく、むしろダンサーを新しい観客に紹介するための、いちばん確かな方法なのです。
ダブルキャストの公演では、もうひとつ気をつけたいことがあります。
日によって主役が替わることは、バレエに慣れた人には常識ですが、初めての人は知りません。
「主役は公演日によって異なります。○日は○○、△日は△△が踊ります」と、日付と名前をはっきり対応させて書いておくことが大切です。
誰かを応援するために観に行く人にとって、日付を間違えることほど残念なことはありません。
発表会こそ、案内が大切
この話は、バレエ教室の発表会にもそのまま当てはまります。
いえ、むしろ発表会のほうが、案内の大切さは大きいかもしれません。
発表会の客席に座っているのは、生徒の家族や祖父母、学校の友だち、職場の同僚など、ふだん劇場に足を運ばない人がほとんどです。
バレエを観るのは、その日が人生で初めてという人も少なくありません。
つまり発表会は、たくさんの人にとっての「初めての舞台」になる場所なのです。
発表会のプログラムには、出演する生徒の名前がずらりと並びます。
それ自体は、出演者にとっても家族にとっても大切な記録です。
けれど、名前と演目名だけが並んだプログラムでは、初めての人にはそれぞれの踊りが何なのかがわかりません。
「○○のヴァリエーション」と書かれていても、それがどんな作品のどんな場面なのか、知らない人には想像できないのです。
演目ごとに、ひとことの説明を添えてみてはどうでしょうか。
「『眠れる森の美女』より、16歳の誕生日を迎えたオーロラ姫が、求婚に訪れた王子たちの前で踊る場面です」
「『くるみ割り人形』より、お菓子の国で金平糖の精が踊る、きらきらとした一曲です」
このくらいの説明があれば、観る人は、自分の孫や友だちがどんな役を踊っているのかを思い描きながら観ることができます。
発表会ならではの、時間の案内もあります。
発表会は演目が多く、全体で数時間に及ぶことも珍しくありません。
祖父母や友人の中には、自分の知っている生徒の出番だけを観に来たいという人もいるでしょう。
そうした人のために、「第2部は15時ごろ開始予定」のように、部ごとのおおよその開始時刻を示しておくと、とても喜ばれます。
休憩のタイミングがわかれば、途中から入場したり、途中で退出したりする人も、ほかの観客の迷惑にならないように動けます。
発表会は、生徒にとっての晴れ舞台であると同時に、バレエという芸術を、まだそれを知らない人に手渡す機会でもあります。
その日に初めてバレエを観た誰かが、「バレエって面白いね」と言って帰っていく。
それは、次の世代の観客や、次の生徒が生まれるきっかけになるかもしれません。
案内に少し手をかけることは、教室の未来に手をかけることでもあるのです。
「知っているもの」から入る
初めての人への案内では、相手がすでに知っているものを入り口にするのも有効です。
この秋の公演に、わかりやすい例があります。
新国立劇場バレエ団が10月23日から11月1日まで上演する新シーズンの開幕作は、チャップリンの映画『街の灯』を、世界で初めてバレエにした作品です。
この公演を誰かにすすめるとき、まず誰が踊るかを伝えるでしょうか。
それよりも「チャップリンの『街の灯』がバレエになるんだって」と言ったほうが、バレエを観たことのない人にもずっと届くはずです。
セリフのない映画で人々を笑わせ、泣かせてきたチャップリンの作品が、同じくセリフのないバレエになる。
そう聞けば、バレエに縁のなかった人でも「どんなふうになるんだろう」と興味がわいてくるのではないでしょうか。
新作に限った話ではありません。
『くるみ割り人形』なら、チャイコフスキーの音楽をクリスマスの時期に街やCMで耳にしたことがある人は多いはずです。
「あの曲が生のオーケストラと踊りで聴けます」と伝えるのも、立派な入り口です。
『白鳥の湖』の有名な旋律や、『眠れる森の美女』が誰もが知るおとぎ話であることも、同じように使えます。
相手がすでに知っているものを入り口にして、そこから舞台へ招き入れる。
知らないものを「知らないまま」差し出すのではなく、知っているものとつなげて差し出す。
案内の基本は、ここにあると思います。
初めての舞台が、人生を変えることがある
私たちのプロジェクトでキャスティングディレクターを務める福田昂平は、10歳のとき、家族とともにロンドンで暮らしていました。
慣れない土地で、まわりになじめず、孤立した日々を過ごしていたそうです。
そんなときに出会ったのが、マリインスキー・バレエの『白鳥の湖』でした。
その舞台が、彼の人生を変えました。
いま彼がバレエの世界で仕事をしているのは、10歳のあの日の、初めての舞台があったからです。
初めての舞台には、それだけの力があります。
そしてその「初めて」は、本人が自分で選んで手に入れるものとは限りません。
誰かが連れていってくれた、誰かがチケットを渡してくれた、誰かが「観てごらん」と声をかけてくれた。
そうしたきっかけがあって、はじめて人は劇場の扉をくぐります。
けれど、そのきっかけに恵まれない子どもたちがいます。
経済的に苦しい家庭の子どもたちや、児童養護施設で暮らす子どもたちにとって、劇場は遠い場所です。
チケット代はもちろん、連れていってくれる大人がいないこともあります。
舞台の案内をどれだけわかりやすく書いても、その案内が届かない場所があるのです。
『クリスマス・キャロル』で、すべての子どもたちに特別なクリスマスを
私たちはいま、ひとつのプロジェクトに挑戦しています。
12月にバレエ『クリスマス・キャロル』を日本で初めて上演し、支援が必要な子どもたちを公演に無料で招待するためのクラウドファンディングです。
作品:ディケンズの名作『クリスマス・キャロル』のバレエ化。
お金だけを信じて生きてきた心の冷たい老人スクルージが、クリスマス・イブの夜に過去・現在・未来の幽霊に導かれ、人の温かさを取り戻していく物語です。
演出・振付は、世界的ダンサーのイワン・ワシリーエフ。
日本では今回が初演です。
時間:上演時間は約1時間50分。
12月5日(土)の昼・夜、6日(日)の昼の全3公演です。
場所:MoN Takanawa: The Museum of Narratives Box1000(東京・高輪)
『クリスマス・キャロル』は、バレエを観たことがない人でも、物語なら知っているという人が多い作品です。
絵本や映画で親しんだ物語が、セリフのない踊りでどう描かれるのか。
それ自体が、初めての人にとっての大きな入り口になります。
そして約1時間50分という長さは、子どもたちにとっても、初めてバレエを観る大人にとっても、無理なく楽しめる長さです。
初めての舞台に、これほどふさわしい公演はないと考えています。
集まった支援は、公演の制作や劇場の運営とともに、子どもたちの招待チケットの確保に使わせていただきます。
支援の総額20万円ごとに、子どもを1人、公演に招待します。
公演チケット付きのリターン
| プラン | 金額 | 対象公演 | 主な特典 |
|---|---|---|---|
| 最速先行 A席 | 19,000円 | 12/5 昼・夜/12/6 昼 | 12/4リハーサル鑑賞 または デジタルフォトブック、舞台上レッスンのLIVE配信 |
| 最速先行 S席 | 22,000円 | 12/5 昼・夜/12/6 昼 | 12/4リハーサル鑑賞 または デジタルフォトブック、舞台上レッスンのLIVE配信 |
| 最速先行 SS席 | 30,000円 | 12/5 昼・夜/12/6 昼 | VIP-PASS、公演パンフレット、リハーサル鑑賞、デジタルフォトブック、パンフレットにお名前掲載 ほか |
| 杉野慧 アテンドプラン | 30,000円 | 3公演から選択 | S席チケット、バックステージツアー、ツーショット撮影 ほか |
| 芥川怜子(Reco)アテンドプラン | 35,000円 | 3公演から選択 | S席チケット、バックステージツアー、ツーショット撮影、オリジナルCD ほか |
| VIP | 200,000円 | 3公演から選択 | VIP-PASS、直筆サイン入りパンフレット、リハーサル鑑賞、パンフレットにお名前掲載 ほか |
| 公開ゲネプロ見学 | 15,000円 | 12/4 18:00 | 本番前の通しリハーサルを劇場で見学 |
観劇チケットを含まない応援プラン
ご来場が難しい方も、ご参加いただけます。
| プラン | 金額 |
|---|---|
| ただただ応援 | 1,000円 |
| 公演写真集(撮影:後藤奈津子) | 6,500円 |
| 児童養護施設の子どもたちへ公演をプレゼント | 10,000円 |
| ファミリークリスマスプラン(観劇チケット別途) | 10,000円 |
| カップルクリスマスプラン(観劇チケット別途) | 10,000円 |
| 公演Blu-ray 純粋収録版 | 11,000円 |
| GIVING TREE ミニツリー | 15,000円 |
| 公演Blu-ray 特別仕様版(Vodka Gorilla解説付き) | 15,555円 |
ファミリー・カップルプランをご利用のうえ観劇される場合は、別途チケットが必要です。
掲載しているのは一部です。
各プランの内容やお届け予定は、CAMPFIREのページでご確認ください。
募集は10月31日までです。
案内を見直すためのチェックリスト
告知文やチラシ、プログラムを作ったら、次の項目に照らして見直してみてください。
- 作品の内容が、ひとことで伝わるか
- 楽しい作品か悲しい作品かなど、作品の雰囲気がわかるか
- 専門用語を、言い換えるか説明しているか
- 開場・開演の時刻が書かれているか
- 終演の予定時刻が書かれているか
- 休憩の有無と回数が書かれているか
- 「ここを観てほしい」という見どころが示されているか
- ダンサーの名前が、役柄と結びつけて紹介されているか
- ダブルキャストの場合、日付と出演者の対応がはっきりしているか
- 服装や遅刻など、劇場での過ごし方に触れているか
- 相手がすでに知っている音楽や物語を、入り口として紹介しているか
もうひとつ確かめてほしいのは、バレエをまったく知らない身近な人に、その案内を読んでもらうことです。
読み終わった相手が「何のお話?」「何時に終わるの?」「どこを観ればいいの?」と聞き返してきたら、その答えが案内に足りていないということです。
どんなチェックリストよりも、初めての人の素直な疑問がいちばん正確に、案内の抜けを教えてくれます。
案内は、客席のいちばん後ろの人に向けて
告知を作るとき、私たちはつい「観に来てくれるのは、ある程度わかっている人」だと思い込んでしまいます。
けれど実際の客席には、生徒の祖父母や友人、職場の同僚、たまたまチラシを手に取った人が座っています。
その人たちにとっては、今日が人生で初めてのバレエかもしれません。
初めて劇場に来た人が二度目に足を運んでくれるかどうかは、最初の一回で決まります。
そして最初の一回は、劇場に入る前の案内から、もう始まっています。
チラシを手に取った瞬間、告知を読んだ瞬間に、その人の「初めての舞台」はすでに幕を開けているのです。
チラシを渡して「何時間あるの?」と聞かれたら、それは相手が観に行こうとしてくれている証拠です。
その問いに、渡す前から答えておくこと。
作品のこと、時間のこと、見どころのことを、ほんの少し言葉にして添えること。
それが、まだ舞台を知らない人のために、私たちが最初に開けられる幕です。
そして、案内の言葉だけでは届かない場所にいる子どもたちには、劇場の扉そのものを開けて待っていたいと思います。
10歳の福田が『白鳥の湖』に出会ったように、この冬、誰かにとっての人生最初のバレエが『クリスマス・キャロル』になるかもしれません。
その最初の一回を、一緒に贈っていただけたらうれしいです。




