こんにちは、大人バレエアカデミー™、バレエトレーニングディレクターの猪野です。
レッスンをしている時に、
皆さんはきちんと音を聞いていますか?
すごく当たり前に聞こえるかもしれませんが
「音に遅れないように動きましょう」
というだけの話ではありません。
バレエにおいて音楽は、
ただの背景ではありません。
ダンサーが何を感じ、
どのタイミングで動き、
どの方向に身体を伸ばし、
どの瞬間に空間を変えるのか。
そのすべてに関わっています。
私は、ダンサーが表現としてやるべき仕事の一つは、
「音楽を空間に翻訳する」
だと考えています。
むしろ、
それがダンサーとしての価値の一つだとすら思っています。
音楽は耳で聞くものです。
でも、踊りは目で見るものです。
つまりダンサーは、
耳で聞こえている音楽を、
身体の動きによって、
目に見える形へ変えていく存在です。
そこにバレエの面白さがあります。
たとえば、
4カウントの音を使って、
タンデュで前に出して、
ポジションに戻す。
これはレッスンの中では、
本当に基本的な動きです。
でも、この単純な動きの中にも、
音楽を使う力ははっきり出ます。
同じ4カウントでも、
1で脚を出して、
2、3を何となく待って、
4で戻す人もいます。
一方で、
4カウントという時間全体を使って、
床を押しながら脚を出し、
つま先まで伸ばし、
音の流れの中で戻ってくる人もいます。
やっていることは同じタンデュです。
でも、見え方はまったく違います。
前者は、
動作を音に当てはめているだけに見えます。
後者は、
音楽の中で身体が動いているように見えます。
バレエは、
脚を出した位置だけで決まるわけではありません。
そこに行くまでの時間。
そこから戻るまでの時間。
音の中でどのように動きが続いているか。
そこまで含めて、
踊りとして見られています。
音を使えている人の動きは、
途中が抜けません。
出す瞬間だけが大事なのではなく、
出していく過程にも意味があります。
戻す瞬間だけが大事なのではなく、
戻ってくる過程にも表現があります。
だから、
たとえ脚が高く上がらなくても、
たとえ難しいパをしていなくても、
音をきちんと使っている人の踊りは綺麗に見えます。
逆に、
形だけを急いで作ってしまうと、
音楽がまだ続いているのに、
身体の表現が終わってしまいます。
すると、
見ている側には少し雑に見えます。
レッスンでは、
これが最初のプリエから出ます。
音が始まって、
プリエをして、
戻ってくる。
たったそれだけでも、
音を使えているかどうかは分かります。
早く下りて、
早く戻って、
次のカウントまで待っている。
これは一見すると、
音に間に合っているように見えます。
でも実際には、
音を使っているというより、
音の中で待ってしまっています。
プリエは、
膝を曲げて戻すだけではありません。
床に向かって下りていく時間があり、
一番深いところに向かう流れがあり、
そこから床を押して戻ってくる時間があります。
その流れが音楽とつながっていると、
最初のプリエだけでも踊りになります。
タンデュも同じです。
脚を出す。
つま先を伸ばす。
床を押す。
ポジションに戻す。
この一つ一つをバラバラにやるのではなく、
音の中でつなげていく。
これができると、
同じ基礎練習でも、
かなり印象が変わります。
私はバレエは形だけではなく、
時間と空間の芸術だと思っています。
どこに脚を出すか。
どこに腕を置くか。
どこに顔を向けるか。
もちろんそれも大事です。
でも、
その形にどのくらいの時間をかけて向かうのか。
その形から次の形へどう移っていくのか。
音楽のどの部分で空間が変わるのか。
ここが抜けてしまうと、
ただ順番をこなしているように見えてしまいます。
言語の翻訳と同じで
同じ文章を翻訳しても、
言葉の選び方や間の取り方で、
伝わり方は変わります。
音楽も同じです。
同じ音楽、
同じ振付、
同じカウントで踊っていても、
音の使い方によって踊りの印象は変わります。
そこにダンサーの個性が出ます。
バレエ団であれば、
その団体の色も出ます。
だから音楽性というのは、
何となく雰囲気で踊ることではありません。
音の長さを理解し、
その時間の中で身体をどう動かすか。
そこを丁寧に扱うことです。
もちろん、
生まれつき音楽への反応が良い人もいます。
最初から自然に音を使える人もいます。
ただ、
それだけで決まるものではありません。
音を使って踊る力は、
訓練できます。
ワガノワ・バレエ・アカデミーなどのレッスン動画を見ると、
音の取り方が本当に見事だなと思います。
身体的に恵まれている部分も当然あります。
でも、
音を最後まで使うこと。
動きを音の中に収めること。
音楽の流れと身体の流れを合わせること。
これは、
身体条件だけで決まる話ではありません。
大人から始めた方でも、
意識して練習すれば変わっていきます。
むしろ大人の方は、
頭で理解して練習できる分、
この部分は伸ばしやすいところでもあります。
ただ音を聞くだけではなく、
自分の動きが音のどこに入っているのかを考える。
早く終わり過ぎていないか。
途中の時間を捨てていないか。
最後のカウントまで身体が動き続けているか。
そういう確認をしながら練習すると、
基礎の見え方が変わります。
よく、
「もっと脚を上げたい」
「もっと回れるようになりたい」
「もっと難しいことをしたい」
という気持ちは出てくると思います。
それは自然なことです。
ただ、
音を使えないまま難しいことをしても、
踊りとしては雑に見えてしまうことがあります。
反対に、
プリエやタンデュのような基礎でも、
音をきちんと使えている人は、
それだけで綺麗に見えます。
これは大人バレエにおいて、
とても大事な視点です。
大人はどうしても、
身体条件の差を気にしやすいです。
脚が上がらない。
甲が出ない。
股関節が開かない。
回転が苦手。
そういう悩みは当然あります。
でも、
音を使うことは、
身体条件だけに左右されるものではありません。
もちろん訓練は必要です。
でも、
今の身体のままでも始められます。
まずはプリエで、
音が終わるまで身体の流れを切らない。
タンデュで、
脚を出して戻すだけにしない。
動きの最後を雑にせず、
次の動きに自然につなげる。
それだけでも、
踊りの印象はかなり変わります。
バレエは、
音楽の上に身体を置いていくものです。
音を無視して形だけを作ると、
動きは合っていても踊りには見えにくくなります。
反対に、
音をきちんと使えるようになると、
同じ動きでも空間が変わります。
見ている人に、
「あ、綺麗だな」
と感じてもらえる瞬間が増えていきます。
脚の高さだけではありません。
派手なテクニックだけでもありません。
音楽をどう使っているか。
そこに、
その人のバレエの質が出ます。
まずはレッスンの最初から、
音を最後まで使ってみてください。
プリエの音を使い切る。
タンデュの4カウントを全部使う。
早く終わって待たない。
音の流れの中で身体を動かす。
それができるだけで、
バレエはずっと綺麗に見えます。
耳で聞いた音楽を、
身体を通して、
空間に見える形へ変えていく。
その感覚を持ってレッスンすると、
いつものプリエも、
いつものタンデュも、
ただの基礎練習ではなくなります。
そこから、
踊りが始まると思います。




