こんにちは、大人バレエアカデミー™、バレエトレーニングディレクターの猪野です。
駅の階段で、ふとつまずきそうになる。
椅子から立ち上がるとき、つい手をついてしまう。
年齢を重ねるにつれて、そんな小さな変化に気づくことがあります。
バレエは、美しく踊るためのものではあります。
けれど、レッスンで毎回くり返しているプリエやルルヴェは、脚の力とバランスを鍛える動きでもあります。
では、大人がバレエを続けることは、転びにくい身体につながるのでしょうか。
ダンス医学の専門誌『Journal of Dance Medicine & Science』に掲載された研究です。
55歳以上の「バレエを楽しむ人」と「踊らない人」を比べた研究
対象は55歳以上の43人です。
趣味でバレエを続けている20人と、年齢や性別をそろえた、踊っていない23人を比べました。
調べたのは、次のような項目です。
椅子から5回立ち座りする時間。
椅子から立ち上がって歩き、戻って座るまでの時間。
太ももの前側と、ふくらはぎの筋力。
ふだんの活動量。
記憶や注意などの認知機能。
そして、この1年間に転んだ経験です。
バレエを続けている人は、脚が強く、動きが速かった
バレエを続けている人は、立ち座りのテストも、立ち上がって歩くテストも、踊らない人より速くこなしていました。
太ももの前側の筋力も、ふくらはぎの筋力も、バレエを続けている人のほうが強かったのです。
ふだんの活動量も多いという結果でした。
立ち座りや、立ち上がって歩き出す動きのテストは、転びやすさの目安として使われるものです。
そこで差が出たことは、大人のバレエにとって心強い結果だといえます。
ただし、「転ばなくなる」とまでは言えない
一方で、この研究には大切な注意点があります。
この1年間に転んだ経験は、2つのグループで差がありませんでした。
認知機能にも、差は見られませんでした。
また、この研究は、ある時点の2つのグループを比べたものです。
バレエを始めたから脚が強くなったのか、もともと活動的な人がバレエを選んでいるのかは、この方法では区別できません。
転んだ経験も、本人が思い出して答えたものなので、正確さには限界があります。
ですから、「バレエをすれば転ばなくなる」と言い切ることはできません。
言えるのは、「バレエを続けている大人は、転びにくさに関わる立ち座りや歩き出しの動作が速く、脚の筋力も強かった」というところまでです。
それでも、続ける価値を感じるには十分な結果だと思います。
レッスンのどの動きが、脚の力につながっているのか
研究で差が出た力は、レッスンでおなじみの動きと重なります。
立ち座りの動きは、膝を曲げて、ゆっくり伸ばすプリエとよく似ています。
太ももの前側の力を、コントロールしながら使う動きです。
ふくらはぎの力は、かかとを持ち上げるルルヴェで、くり返し使っています。
つま先で床を押し、また静かに下りてくる。
その一回一回が、足首まわりの力を育てています。
立ち上がって歩き出す動きには、片脚から片脚へ体重を移す力が欠かせません。
バランセやパ・ドゥ・ブレのように、体重をなめらかに移す練習は、この力と重なります。
とはいえ、どの動きがどれだけ役に立っているのかまでは、この研究では調べられていません。
無理なく続けるために、大切にしてほしいこと
脚の力もバランスも、一度のレッスンで劇的に変わるものではありません。
大切なのは、無理のない範囲で、長く続けることです。
最初は、バーにしっかりつかまって行ってください。
ルルヴェは高さよりも、ゆっくり上がって、ゆっくり下りることを大切にしてください。
ふらついたら、すぐに両足で立って構いません。
持病がある方や、めまいや関節の痛みがある方は、始める前にかかりつけの医師に相談してください。
レッスン中に気になることがあれば、遠慮なく講師に声をかけましょう。
バレエは、何歳から始めても、身体と向き合う時間をくれます。
美しく踊りたいという気持ちが、気づけば日々の暮らしを支える力にもなっている。
次のレッスンでは、プリエとルルヴェを、いつもより少しゆっくり行ってみてください。
参考文献
Simpkins C, Ahn J, Yang F. Recreational Ballet Practice Is Associated with Improved Fall Risk Factors in Older Adults. Journal of Dance Medicine & Science. 2026;30(3).
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/1089313X251380085




