こんにちは、大人バレエアカデミー™、バレエトレーニングディレクターの猪野です。

今年の12月5日、6日に、全幕バレエ『クリスマス・キャロル』を日本で初めて上演します。

 

『クリスマス・キャロル』という名前を知っていても、バレエになると何を観るのだろう、と感じる方もいるでしょう。
王子とお姫様の物語を想像していると、少し意外かもしれません。
主人公は、お金を信じ、他人に心を閉ざして暮らす老人スクルージです。

しかも、この老人を演じるのが、イワン・ワシリーエフです。
老人の姿なのに、高く跳び、鋭く回る。
そこだけでも、ちょっと観てみたくなりませんか?

でも、面白さは、その踊りだけではありません。
偏屈な老人の人生を追っていたはずなのに、途中から、自分はどうなのだろうと考える。
大人の皆さんに観ていただきたい理由も、そこにあります。

ワシリーエフが、偏屈な老人を踊ります

イワン・ワシリーエフ

本作では、イワン・ワシリーエフが演出・振付を手がけ、自らスクルージ役を踊ります。
自分で作った作品の主人公を、本人が演じる公演です。

ワシリーエフの跳躍や回転を楽しみにしている方もいるでしょう。
今回は、その技術を、老人の役で観ることになります。
若い王子が格好よく跳ぶのとは、見え方が違いますよね。

見た目は偏屈な老人なのに、驚くほど動ける。
老人の姿と踊りの勢いの違いに笑ってしまう一方で、その跳躍や回転には目を奪われるでしょう。
バレエの技の名前を知らなくても、「あの人、どうしてあんなに跳べるのだろう」と感じるところから楽しめます。

スクルージ役で跳躍するイワン・ワシリーエフ

バレエを習っている方には、技が終わったあとも見ていてほしいです。
跳んだ瞬間だけを切り取れば、身体能力のすごさに目が行きます。
でも、舞台の上では、その前も、その後も、同じ人物として存在し続けなければいけません。

大きな動きをしても、スクルージという人物が見える。
踊りの迫力と役の性格が、どう一緒に伝わってくるのか。
跳躍や回転を楽しみに来た方にも、その役の演じ方まで観てほしいです。

例えば、人に近づくときも、近づきたくて歩くのか、仕方なく近づくのかでは、見ている側が受け取るものは変わります。
顔をそむける動作にも、嫌っているのか、怖いのか、気まずいのかという違いがあります。

スクルージが誰を見ているか、相手にどう反応するかを追ってみると、跳躍の高さとは別の面白さが見えてきます。
同じ人物が、物語の初めと終わりでは違って見える。
その変化も、全幕を通して観る楽しみです。

普段のレッスンでは、脚の高さや膝の伸び、回転の回数が気になります。
もちろん、その練習は必要です。
ただ、舞台では、それらの技術を使って一人の人物を演じ、物語を進めています。
知っている動きがあっても、練習で見るときとは違う印象になるのは、そのためです。

ワシリーエフとともに出演するのは、イリーナ・ペレン、イワン・ザイツェフをはじめ、国内外で活動するダンサーたちです。
スクルージ一人で、この物語が進むわけではありません。
スクルージに接する人々の反応も含めて観ると、彼がどんな人で、どう変わっていくかを追いやすくなるでしょう。

棺に札束だけを入れて、それで満足できるでしょうか

スクルージに扮したイワン・ワシリーエフ

原作は、チャールズ・ディケンズの『クリスマス・キャロル』です。
スクルージのもとへ、クリスマス・イブに精霊たちが現れ、彼に過去、現在、未来を見せます。
自分がどんな人生を送ってきて、このまま進めばどうなるのかを、本人が見ることになるのです。

皆さんは、自分の将来を見せられるとしたら、見てみたいでしょうか。
しかも、都合のよい未来を選べるわけではありません。
今までの選択を、そのまま続けた先にある未来です。

スクルージは、お金を持っています。
ただ、それで誰かと温かい時間を過ごせているかといえば、そうではありません。
お金を守ることに熱心になるうちに、人と関わる喜びから離れてしまっている。

もし、自分が人生を終えたときに、棺に入るのが札束だけだったら、それで満足なのか。
少し極端な問いですが、お金を残すことと、満足して人生を終えることは同じではないでしょう。

私は、お金が大事ではないと言いたいわけではありません。
生活するにも、バレエを習うにも、公演を作るにもお金は必要です。
仕事を続けるために、きちんと利益を出すことも必要でしょう。

ただ、何のために働き、何のためにお金を使うのかまで、後回しにしていないでしょうか。
落ち着いたら会おうと思っている人がいる。
時間ができたら行こうと思っている場所がある。
そのまま何年も過ぎてしまうのは、スクルージだけの話ではないはずです。

自分では、今やるべきことを一生懸命やっているつもりです。
だから、自分の生活を外から見る機会がないと、何を置き去りにしているかには気づきにくい。
スクルージは精霊に連れ出されて、普段なら見ないものを見せられます。
客席にいる私たちは、その人生を一緒にたどることになります。

最初は、嫌な老人だなと感じるかもしれません。
それでも、自分には関係のない人だと言い切れるかどうか。
そこを考えると、昔の外国の物語が、急に身近になります。

スクルージが取り戻していくのは、誰かを思い、誰かに与える喜びです。
お金を手放して終わる話ではなく、人とどう生きていくかが変わっていく。
その変化を、台詞で説明するのではなく、身体で見せるのが今回のバレエです。

幕開けから踊りが始まります

全幕バレエと聞くと、詳しくない自分に分かるだろうか、と心配になる方もいるかもしれません。
長い物語を、台詞なしで観ることに慣れていなければ、そう感じるのも自然です。

今回の作品は、冒頭から踊りで始まります。
まず目の前の動きや音楽を楽しみながら、物語に入っていける作品です。

予習をするなら、登場人物の名前を全部覚えるより、スクルージがどんな人か、精霊に連れられて過去・現在・未来を見る話だというところを知っておくとよいでしょう。
舞台の上で何が起きているかを考えるときに、手がかりになります。

一方で、何もかも理解してから楽しもうとすると、観ている間も答え合わせになってしまいます。
あの動きはどういう意味なのかと考えているうちに、次の踊りを見逃すのはもったいないです。

誰かの動きに笑ったり、音楽と踊りが合ったところで気持ちよさを感じたりする。
まずはそうやって観ていただいて構いません。
あとから、あの場面はこういうことだったのか、とつながる楽しみもあります。

舞台を観るのに、踊れる必要もありません。
自分にはできない動きだからこそ驚けますし、どうやっているか分からないまま見入ってもよいのです。
バレエを習っている方も、全部を自分の練習に持ち帰ろうとしなくて大丈夫です。

今回の日本初演に向けて、ワシリーエフは作品をリニューアルします。
ミハイロフスキー劇場が製作した衣装や、会場のLEDスクリーンを使った映像美術も、この公演の見どころです。
踊りだけを一つずつ見るのとは違い、衣装を着た人物が、音楽や舞台の景色の中で動く。
全幕の舞台では、その全体を楽しめます。

上演時間は、休憩を含めて約1時間50分の予定です。
初めて全幕バレエを観る方も、予定を立てるときの参考にしてください。

大人になってから観ると、自分の時間の使い方も気になります

この作品は、子どもたちにも観てもらいたい公演です。
でも、子ども向けの教訓としてだけ受け取るには、大人の自分に関わるところが多い物語です。

大人になると、今までの選択の結果を引き受けながら生活しています。
あのとき別のことをしていたら、と考える経験も増えます。
スクルージが自分の過去を見せられることにも、子どもの頃とは違う感じ方をするのではないでしょうか。

過去に戻って、やり直すことはできません。
ただ、これから誰と会うか、誰に何を伝えるか、何に時間を使うかは、今からでも選べます。
スクルージは老人になってから、自分の生き方を変えようとします。

私は、大人になってからバレエを始める方たちと関わっています。
やってみたかったことを、実際に始める。
そこから毎週の楽しみができて、会う人が増え、生活の中にそれまでとは違う時間が生まれる。
大人になっても、生活が変わるきっかけはあります。

年齢を重ねた主人公が変わる物語だからこそ、これからやってみたいことがある大人にも観ていただきたいです。

舞台を観たあと、皆さんがどこを覚えているかは、それぞれ違うでしょう。
ワシリーエフの踊りが忘れられない方もいれば、スクルージの姿に自分や身近な人を重ねる方もいるはずです。
誰かと一緒に観たなら、帰りに、どの場面が気になったかを話すのも楽しみです。

同じ舞台を観ていても、相手は自分が気づかなかったところを見ているかもしれません。
あの人が面白かった、あそこで気持ちが変わったように見えた、と話しているうちに、舞台をもう一度思い出せます。
そういう時間も含めて、公演に来ていただけたらうれしいです。

12月に、誰と劇場へ行きたいですか

今回の公演では、児童養護施設の子どもたちを劇場に招待するためのクラウドファンディングも行っています。
私たちが用意したいのは、子どもたち自身が舞台を観て、面白いかどうかを感じられる機会です。

招待したからには、舞台そのものを楽しんでほしいですし、チケットを買って来てくださる皆さんにも、来てよかったと感じていただきたいです。
踊る人や舞台を支える人たちの仕事にも、きちんと対価を払える公演を目指しています。

スクルージが人に与える喜びを取り戻していく作品で、劇場へ来る機会の少ない子どもたちにも席を用意する。
この公演で、その両方を実現したいのです。

公演は2026年12月5日(土)の13時と17時、12月6日(日)の13時の全3回です。
会場は、高輪のMoN Takanawa: The Museum of Narratives、Box1000です。

会場のMoN Takanawa: The Museum of Narratives

現在、CAMPFIREで観劇チケットを含むリターンをお申し込みいただけます。
募集は10月31日までです。
公演日や席種、各プランの内容は、CAMPFIREの公演・チケット案内でご確認いただけます。

普段一緒にレッスンを受けている方と観に行くのも、バレエを習っていないご家族や友人を誘うのもよいでしょう。
今年の12月に、一緒に舞台を観たい人を一人思い浮かべて、公演の日程を相談してみてください。

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