こんにちは、大人バレエアカデミー™、バレエトレーニングディレクターの猪野です。

大人からバレエを始めた方と話していると、ときどき不思議に思うことがあります。

5年、10年と習っているのに、

「自分が今どのくらいできるのか分かりません」

「次に何をできるようになればいいのか分かりません」

「ずっと初級にいますが、何ができたら次に進めるのか分かりません」

という方が珍しくありません。

毎週レッスンには通っている。

プリエもタンデュもする。

ピルエットもジャンプもやっている。

それなのに、自分が何を習得したのかは説明できない。

これは、大人バレエの世界では普通に起きています。

私は以前から、ここに少し違和感がありました。

子どものバレエには、ある程度「教える順番」があります。

最初から難しい回転をやらせるわけではありません。

身体の発達を見ながら、立ち方、ポジション、プリエ、タンデュ、腕の使い方、センター、ジャンプ、回転と、少しずつ進んでいきます。

ところが、大人になると急にその順番が曖昧になる。

入門クラスなのに、その日によってやることが違う。

先生が変われば内容も変わる。

「初級」と書いてあっても、教室ごとにレベルが全く違う。

何年やれば次に進めるのかも分からない。

なぜ、大人バレエではこういうことが起きるのでしょうか。

私は、先生が悪いからだとは思っていません。

もっと根本的に、大人バレエという分野そのものが、長い間「人を育てる教育」として作られてこなかったことが大きいと思っています。

大人バレエは、最初から「育てるもの」として始まったわけではない

バレエには本来、教育体系があります。

ワガノワ、RAD、チェケッティなど、それぞれ考え方は違いますが、子どもを何年もかけて育てることを前提にしています。

何歳くらいで何を習うのか。

どの段階で何を身につけるのか。

次に進む前に、何ができている必要があるのか。

こういう考え方があります。

これは、子どもを「育てる対象」として見ているからです。

何もできないところから始めて、少しずつ身体を作り、技術を身につけていく。

その先に、発表会があったり、バレエ学校への進学があったり、場合によってはプロを目指したりする。

だから、教える側も順番を考えます。

一方で、大人バレエは、最初から同じ発想で作られたわけではありません。

もともと子どもを教えていた教室に、大人クラスが加わった。

子どもの保護者が「私もやってみたい」と言った。

昼間にスタジオが空いているから、大人向けのクラスを作った。

仕事帰りに通える夜クラスを作った。

そうやって、大人向けのレッスンが増えていった教室も多いと思います。

そのときにまず求められたのは、

「大人でもバレエを楽しめる場所を作ること」

でした。

これはとても大事なことです。

昔は今ほど、大人からバレエを始められる場所が多くありませんでした。

子どもの頃に習っていなければ、バレエを始めること自体が難しかった。

だから、

「大人からでも大丈夫ですよ」

というクラスが増えたことには大きな意味がありました。

ただ、その後、大人バレエ人口が増えても、

「大人をどうやって育てるのか」

というところまでは十分に作り込まれなかった。

私は、そこが今の状況につながっていると思っています。

「趣味だから」で済まされてきたものが多い

大人バレエの話になると、よく出てくる言葉があります。

「趣味なんだから」

という言葉です。

趣味なんだから、楽しくできればいい。

趣味なんだから、そこまで細かく教えなくてもいい。

趣味なんだから、プロみたいなことは必要ない。

もちろん、大人からバレエを始めた人全員がプロを目指しているわけではありません。

仕事もあります。

家庭もあります。

週に1回しか来られない人もいます。

ただ、趣味だから教える順番がなくていいとは私は思いません。

趣味でピアノを始めても、初心者向けの教材があります。

趣味で英語を習っていても、最初から難しい文章を読ませるわけではありません。

ゴルフでも、フォームやクラブの使い方を教わってからコースに出ます。

ところが、大人バレエでは、それに近い順番がないままレッスンが進んでいくことがあります。

始めて数回の人が、プリエやタンデュの説明も十分に分からないまま、バーの後半ではフォンデュやフラッペをしている。

センターに行けばアダージオをやる。

ピルエットもする。

ジャンプもする。

本人は先生を見ながら必死に動きます。

音楽に合わせて動けるので楽しい。

汗もかく。

90分終わると、レッスンをした満足感もあります。

でも半年後に、

「タンデュを一人でやってみてください」

と言うと、よく分からない。

脚を出すことは知っていても、

支持脚をどう使うのか。

膝をどう伸ばすのか。

どこから脚を動かすのか。

戻すときに何をするのか。

そういうところが曖昧なままです。

毎週タンデュはやっていた。

でも、タンデュそのものを習う時間はなかった。

大人バレエでは、こういうことがよく起きます。

やった回数と、習得したことは同じではない

これは、私はとても大きな違いだと思っています。

レッスンに100回来た。

だから100回タンデュをした。

それだけで、タンデュが習得できるとは限りません。

どこに注意するのか。

何から覚えるのか。

何ができたら次に進むのか。

ここが分からなければ、間違ったやり方を100回繰り返すこともあります。

実際に大人の方を見ていると、

「ずっとこれでやってきました」

と言われることがあります。

たとえばタンデュで、脚を出すたびに骨盤ごと動く。

つま先を伸ばそうとして、足首だけを固める。

支持脚の膝が曲がる。

でも本人は、それを何年も続けています。

なぜなら、誰かに悪いところを言われなかったからというより、

「どの段階で何を覚えるか」

が整理されていなかったからです。

初めてタンデュをする人に、

脚を外へ出して、

膝を伸ばして、

つま先を伸ばして、

軸足に立って、

骨盤を動かさず、

ターンアウトして、

腕も動かして、

顔もつけて、

音楽に合わせてください。

と言っても、全部はできません。

先生にとっては一つの「タンデュ」でも、初心者にとっては何個もの作業です。

だから、分ける必要があります。

まず脚の動きだけ覚える。

必要ならプリエとタンデュも別々にする。

次にプリエを保ったままタンデュをする。

それが分かったら、伸びながら脚を出す。

戻しながらプリエをする。

そのあとに腕をつける。

顔をつける。

方向をつける。

こうやって一つずつ増やしていけば、本人も何を練習しているのか分かります。

でも、最初から全部やれば、

「私はできない」

という感覚だけが残りやすくなります。

バレエが上手な人ほど、初心者のつまずきが見えにくいことがある

ここには、教師側の難しさもあります。

多くのバレエ教師は、子どもの頃からバレエをしています。

10年、20年、30年と続けてきた人もいます。

自分が最初にタンデュを習った日のことを覚えている人は、ほとんどいないと思います。

いつから片手バーになったのか。

いつから顔をつけたのか。

いつから5番ポジションを使ったのか。

いつ初めてピルエットをしたのか。

そういうことを、長い年月の中で自然に覚えています。

先生にとっては、

支持脚に立ちながら脚を出すことも、

腕を使うことも、

音楽を聞くことも、

顔をつけることも、

一つの動きになっています。

考えなくてもできます。

初心者はそうではありません。

一個ずつ考えています。

順番を覚える。

足を出す。

膝を伸ばす。

つま先を伸ばす。

腕を動かす。

顔を見る。

次の動きを考える。

音楽に遅れないようにする。

それだけで頭がいっぱいになります。

この差があるので、バレエが上手な人がそのまま初心者を教えるのが簡単かというと、そうではありません。

自分が無意識にやっていることを分解して、

「今の段階では何を要求するか」

を決めなければいけません。

そこまでやって初めて、教える順番ができます。

私は、ここがカリキュラム作りの難しいところだと思っています。

大人は個人差が大きいから、カリキュラムを作れないのか

大人バレエにカリキュラムがない理由として、

「大人は人によって違いすぎるから」

という話もあります。

これは一部その通りです。

20代で運動経験がある人もいます。

60代で初めて身体を動かす人もいます。

昔バレエをしていて、何十年ぶりに戻ってきた人もいます。

ヨガ経験がある人。

ダンス経験がある人。

運動習慣がほとんどない人。

同じ「初心者」でも身体は全く違います。

股関節の動きも違う。

足首の強さも違う。

筋力も違う。

覚えるスピードも違う。

週1回の人もいれば、週3回の人もいる。

だから、

「入会して半年経ったら全員ここまで進みます」

という作り方は難しいと思います。

ただ、

「人によって進む速度が違う」

ことと、

「進む道がない」

ことは別です。

ここは分けて考えた方がいいと思っています。

たとえば、両手バーから片手バーへ進むとします。

すぐに片手でも安定する人なら早く進めばいい。

不安定な人は、両手バーを長くやればいい。

でも、

「両手バーで安定する」

「片手バーに進む」

「片手で腕をつける」

という順番自体は作れます。

カリキュラムは、全員を同じ速度で進ませるためのものではありません。

今どこにいるのか。

次に何を練習するのか。

それを分かるようにするためのものです。

「初級」という言葉が曖昧なのも、カリキュラムがないから

大人バレエの教室には、

入門。

基礎。

初級。

初中級。

中級。

というクラス名があります。

ところが、この基準は教室によって全く違います。

ある教室では、入門から5番を使う。

別の教室では3番から始める。

ある教室の初級では、ピルエットを普通に回る。

別の教室では、初めての人でも初級に参加できる。

同じ「初級」という言葉でも、中身は全く違います。

これでは、生徒さんが自分で判断するのは難しいと思います。

「私は3年やっているから初級ですか?」

と聞かれることがあります。

でも、年数だけでは決められません。

週1回の3年と、週3回の3年では、受けたレッスン数が違います。

同じ週1回でも、何を習ってきたかで違います。

バレエ歴は長いのに、片手バーになると身体が傾く方もいます。

反対に、始めて1年でも基礎を順番に習ってきて、安定して動ける方もいます。

では、何を基準にするのか。

何ができたら次に進むのか。

そこを決めなければ、本当の意味でレベル分けはできません。

つまり、クラス分けをきちんとやろうとすると、結局カリキュラムが必要になります。

毎回違うアンシェヌマンをすることが、上達とは限らない

先生側としては、毎週同じことをすると生徒さんが飽きるのではないかと考えると思います。

先週と同じ内容だったら、

「また同じだった」

と思われるかもしれない。

せっかく来てもらうなら、新しいことをしたい。

いろいろな動きを経験してもらいたい。

その気持ちは分かります。

ただ、初心者にとって、新しいアンシェヌマンを覚えることはそれだけで大きな負担です。

右から始まるのか。

左なのか。

前、横、後ろなのか。

次はプリエなのか。

腕はどこなのか。

顔はどちらなのか。

音楽に間に合うのか。

そこに頭を使っていると、身体の使い方まで考えられません。

だから私は、大人初心者には、ある程度同じことを繰り返す時間も必要だと思っています。

同じ順番に慣れてくると、順番を考えなくてよくなります。

そこで初めて、

「今日は支持脚を見よう」

「今日は腕をつけよう」

「今日は顔をつけよう」

と身体に意識を向けられます。

毎週内容が違うと、毎回ゼロから順番を覚えることになる。

レッスン自体は楽しい。

でも、半年後、一年後に技術として何が残っているかというと、そこは別の話です。

できない動きを、できないまま何年もやっている人がいる

私は、ここが一番気になっています。

大人の方を見ていると、

「ピルエットが何年やっても回れません」

「パッセが安定しません」

「ジャンプになると何をしているか分かりません」

という話をよく聞きます。

本人は、その動きを何年も練習しています。

だから、

「私はセンスがないんだと思います」

と考えています。

でも、実際に見てみると、別のところに原因があることがあります。

ピルエットが回れない人を見たら、そもそも片脚でルルベして立てない。

パッセが安定しない人を見たら、支持脚に乗ることがまだできていない。

ジャンプがうまくいかない人を見たら、プリエの使い方が曖昧なままになっている。

アッサンブレが分からない人を見たら、タンデュから脚を閉じる動きが曖昧だった。

こういうことは普通にあります。

本人は一番難しいところを何年も練習している。

でも、本当に練習しなければいけなかったのは、その前の段階だった。

ここにカリキュラムがあると、

「この動きができないなら、まずここを確認しよう」

と戻る場所があります。

カリキュラムというと、先へ進むためのものに思われがちですが、私は逆方向も大事だと思っています。

できないときに、どこまで戻ればいいのかが分かる。

これがあると、練習の仕方が変わります。

ピルエットを100回やるのではなく、まずルルベで立つ。

その方が、結果的に早く回れることがあります。

「先生によって言うことが違う」も、同じ問題から起きる

大人バレエでは、

「先生によって言うことが違います」

という話もよく聞きます。

もちろん、流派の違いがあります。

先生によって考え方もあります。

表現の仕方も違います。

全部同じである必要はありません。

ただ、複数の先生がいる教室で、

初心者にどこまで教えるのか。

何を先に教えるのか。

何ができてから次に進むのか。

そこまで全部先生任せにすると、生徒は混乱します。

月曜日は5番。

火曜日は3番。

水曜日は最初から片手バー。

木曜日は両手バー。

ある先生では回転をたくさんする。

別の先生ではほとんど回らない。

一つ一つには、それぞれの先生なりの理由があると思います。

ただ、生徒側からすると、

「私は今、何を身につけているんだろう」

となります。

特に大きな教室になると、ここは問題になります。

一人の先生だけで教えている教室なら、先生の頭の中に順番があれば成立するかもしれません。

先生が10人、20人、30人と増えたら、そうはいきません。

最低限、

「このレベルではここまで教える」

「この段階ではこれを優先する」

という共通認識が必要になります。

私は、先生の個性をなくす必要はないと思っています。

音楽の選び方も違っていい。

伝え方も違っていい。

アンシェヌマンも違っていい。

それでも、教室としてどこへ連れていくのかは共有できるはずです。

カリキュラムを作るのは、実際には手間がかかる

では、必要ならなぜ作らないのか。

私は、ここは単純に難しいからだと思っています。

「初心者には基礎を丁寧に教えます」

と言うだけなら簡単です。

でも、本当にカリキュラムを作ろうとすると、

基礎とは何か。

何を先に教えるのか。

何を後にするのか。

何ができたら次へ進むのか。

どの程度できれば「できた」と判断するのか。

できないときはどこへ戻るのか。

そこまで決めなければいけません。

さらに大人の場合は個人差があります。

身体の硬さも違う。

年齢も違う。

経験も違う。

通える回数も違う。

そこまで考えながら、一つの道筋を作るのは簡単ではありません。

教師研修も必要になります。

カリキュラムを書類にしただけでは意味がありません。

先生が、

なぜこの順番なのか。

今何を見るのか。

何ができたら次に進めるのか。

そこまで理解している必要があります。

だから、大人バレエに明確なカリキュラムが少ないこと自体は、私は不思議ではありません。

作ろうとすると、教室の運営全体に手を入れる必要があります。

「先生がその日の参加者を見て、自由にレッスンする」

という方が簡単です。

ただ、簡単な方を選び続けると、その負担が生徒側に行きます。

一番困るのは、真面目に通っている人

カリキュラムがなくても楽しめる人はいます。

先生の真似が得意。

身体を動かすことに慣れている。

分からなくてもあまり気にしない。

その日のレッスンを楽しめれば満足できる。

そういう方には、自由なクラスが合うこともあります。

私が気になるのは、真面目に習っている方です。

先生に言われたことを全部直そうとする。

できないと、自分の努力が足りないと思う。

周りができていると、自分だけ遅れているように感じる。

そういう人ほど、順番がない環境では苦しくなりやすいと思います。

毎週、

「引き上げて」

「ターンアウトして」

「お腹を使って」

「軸を強くして」

「肩の力を抜いて」

と言われる。

本人は全部直そうとします。

でも、今どれを最優先にすればいいのか分からない。

次の週にはまた別のことを言われる。

それも直そうとする。

何年かすると、

「私はバレエに向いていないんでしょうか」

という話になります。

私は、この言葉を何度も聞いてきました。

でも、実際に見てみると、

向いていないというより、習う順番が整理されていなかったのではないかと思うことがあります。

片脚で立つことを十分に習っていないのに、回転している。

腕だけでも難しいのに、脚と顔まで全部同時にやっている。

バーで安定していないのに、センターへ行っている。

そこでできなかったからといって、本人のセンスだけの問題にはできません。

大人は時間がないからこそ、順番が必要になる

大人の方は、子どものように週5日も6日もバレエをする人ばかりではありません。

仕事があります。

家族があります。

身体の調子もあります。

週1回の90分を作るだけでも大変な方がいます。

だから私は、大人ほど順番が必要だと思っています。

限られた時間の中で、

今日は何を覚えるのか。

今はどこを練習しているのか。

何ができるようになったのか。

次に何をするのか。

そこが分かっていた方がいい。

毎週90分動いて終わるのではなく、前回の続きがある。

先月やっていたことが、今月につながっている。

半年前にできなかったことが、今はできる。

それが分かるだけでも、バレエの続け方は変わります。

私は、大人から始めた人に短期間で何でもできるようになってほしいとは思っていません。

半年でピルエットが回れなくてもいい。

一年で脚が高く上がらなくてもいい。

時間がかかることはあります。

でも、

「何年もやっているのに、何をやっているのか分からない」

という状態にはしたくありません。

「楽しく丁寧に指導します」だけでは、上達の説明にはならない

バレエ教室のホームページを見ると、

「初心者歓迎」

「楽しくレッスン」

「丁寧に指導します」

という言葉をよく見ます。

どれも悪いことではありません。

むしろ必要です。

初めての人が入りやすい。

先生が怖くない。

楽しく続けられる。

それは大事です。

ただ、それだけでは、

「この教室ではどうやって上達していくのか」

は分かりません。

初心者を歓迎したあと、どうするのか。

丁寧に何を教えるのか。

できない人には、どうやって分かるようにするのか。

一年後にどこまで進めるのか。

何ができたら次のレベルなのか。

そこまで考えられて初めて、教育になると思っています。

大人だから、楽しければいい。

そういうクラスがあってもいいと思います。

でも、大人から始めても本気で上手くなりたい人もいます。

プロになりたいわけではない。

でも、今よりきれいに動きたい。

ピルエットを回れるようになりたい。

舞台で踊ってみたい。

音楽に合わせて、自分の身体をもっと自由に使いたい。

そう思っている方に、

「何回も来ていれば慣れますよ」

だけでは足りません。

レッスンをすることと、人を育てることは同じではない

毎週クラスを開く。

先生がアンシェヌマンを出す。

生徒がそれを踊る。

それでレッスンは成立します。

でも、

「この人を一年後にどこまで連れていくのか」

と考えると、見方が変わります。

今どこにいるのか。

何ができていないのか。

なぜできないのか。

次に何を教えるのか。

何はまだ教えないのか。

ここまで考える必要があります。

私は、この「まだ教えない」という判断も大事だと思っています。

先生は、知っていることがたくさんあります。

だから教えようと思えば、いくらでも新しいことを教えられます。

でも、今必要ではないものまで入れると、本人の中では全部が中途半端になります。

もう少し同じことを続けた方がいい。

もう一回前に戻った方がいい。

今は腕をつけない方がいい。

まだ回らない方がいい。

そういう判断も指導だと思っています。

先へ進ませることだけが、いい指導ではありません。

必要なところで止める。

戻す。

繰り返す。

その積み重ねで、結果的に先へ進めるようになります。

カリキュラムは、先生の個性をなくすためのものではない

カリキュラムという言葉を使うと、

「全員同じレッスンになるのでは」

と思う方もいるかもしれません。

私はそうは考えていません。

先生ごとに違っていい部分はあります。

音楽も違っていい。

言葉の使い方も違っていい。

アンシェヌマンも違っていい。

先生自身の経験も、得意なことも違います。

ただ、

「このクラスでは今、何を習っているのか」

だけは教室として共通にできる。

そうすれば、先生が変わっても、生徒は同じ道の上を進めます。

月曜日に習ったことが、水曜日のレッスンにつながる。

別の先生のクラスに出ても、それまで覚えたことが無駄にならない。

私は、複数の先生がいる教室ほど、ここは必要だと思っています。

大人バレエは「参加できる場所」から、次の段階へ進んでいる

これまでの大人バレエには、

「大人でもバレエができます」

ということ自体に大きな価値がありました。

大人向けのクラスがある。

初心者でも参加できる。

年齢を気にせず始められる。

それだけで意味があった時代があります。

今は、大人バレエを教える場所が増えました。

情報も増えました。

SNSを見れば、バレエの解説はいくらでも出てきます。

動画でも学べます。

だからこそ、これから教室に問われるのは、

「大人でも参加できます」

だけではなく、

「この人をどうやって上達させるのか」

ではないかと思っています。

家から近い。

先生が優しい。

スタジオがきれい。

料金が安い。

それも教室を選ぶ理由になります。

ただ、本当に習い続けるなら、

「通い続けた先に何があるのか」

も大事です。

一年後に何が変わるのか。

三年後に何ができるようになるのか。

今できないことを、どうやってできるようにしていくのか。

そこまで考えている教室は、まだ多くないと思います。

私は「大人だから、ここまででいい」という指導にはしたくない

大人から始めた人には、身体の条件もあります。

年齢も違います。

できることにも個人差があります。

子どもの頃から何十年もやっている人と同じところを目指せない場合もあります。

でも、それと、

「大人だからこれくらいでいい」

ということは違います。

プロにならなくても、上手くなりたい人はいます。

週1回でも、前より踊れるようになりたい人はいます。

できなかったことができるようになることを楽しみにしている人もいます。

そういう人に対して、

毎回違うレッスンをして、

何ができたら次に進むのかも決めず、

何年経っても同じところで迷わせて、

最後に「趣味だから楽しくやりましょう」で終わる。

私は、それでいいとは思いません。

大人だからこそ、時間は限られています。

だから、何をどう積み上げていくのかを考える。

できなければ、その人のセンスを疑う前に、教える順番を見直す。

もっと前に戻った方がいいなら戻る。

一つずつ覚えた方がいいなら、一つずつやる。

その方が、遠回りに見えても結局は早いことがあります。

大人バレエに明確なカリキュラムがない教室が多いのは、大人が長い間「育てる対象」として考えられてこなかったからだと思います。

でも、大人バレエがここまで広がった今、もう「大人でも参加できます」だけでは足りません。

私は、大人だからここまででいい、という指導にはしたくありません。

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