大人バレエアカデミー™、バレエトレーニングディレクターの猪野です。
バレエを指導していると、よく聞かれることがあります。
「週2〜3で通っているのに伸びません」
「家でもやっているのに変わりません」
というものです。
頑張っているのに結果が出ないと、
もっと頑張る方向に行きたくなりますよね。
でも、ここで順番を間違える人が多いです。
最初にとても大切なことがあります。
上達は、練習量だけでは決まりません。
練習の条件で決まります。
同じ60分でも
伸びる60分と、伸びない60分が存在します。
今回はその代表的なNG5つを紹介したいと思います。
NG1 詰め込み(間隔を詰めすぎる)
「今週は連日で受けました」
「家でも毎日、同じことを長くやりました」
真面目な人ほどやりがちな、あるあるです。
でも、練習は詰め込むより、間隔を空けた方が成績が上がりやすい傾向が
メタ分析で示されています。
さらに、課題の種類や試行間の間隔などで効果が変わる(つまり“ただ空ければいい”ではない)ことも同じ論文内で示されています。
やること(バレエ用の置き換え)
・20分を1回より、5分を2回
・同じ課題は「当日だけ」で終わらせない
翌日か3日後に、短く触る
・長くやらない。短く、別日に分ける
判定基準
次のレッスンで
同じ注意を言われなくなる。
同じ回数なのに楽になる。
これらのサインが上達を感じさせてくれます。
NG2 疲労で形が崩れているのに続ける
疲れてくると、形が崩れます。
問題は「その日の出来」だけではありません。
筋疲労は、課題練習の質を落とすだけでなく、
その後の運動スキル学習自体を損ねる可能性が示されています(疲労がない状態の後日練習でも獲得が低下、など)。
バレエでよくある“崩れのサイン”
・プリエで踵が浮き始める
・ルルベで足趾が握り始める
・タンデュで骨盤が逃げる
・回転で、回るたびに位置がずれる
終了ルール(先に決めておきましょう)
・2回連続で崩れたら、その課題は終了
・最後は「きれいにできる範囲」に戻して終える
・疲れた日は、回数を稼がない。形の反復だけ残す
判定基準
80点の形で3回できたら勝ち。
60点以下になったら、その日は終わり。
これができると、上達が安定します。
NG3 目的なし反復(ただ回す)
「とりあえずプリエ多め」
「とりあえずタンデュをたくさん」
これは“やった感”は出ます。
でも、伸びる練習の条件が抜けています。
意図的に上達を狙う練習は、課題が明確で、フィードバックがあり、
繰り返しと微調整ができることが条件として整理されています。
やること(1回の練習は目的1つ)
例:プリエ
目的:踵を床に残す
手段:深さを半分にする
回数:2回だけ
確認:動画を10秒撮る(踵だけ見る)
修正:できてなかったらさらに浅くして、もう2回
判定基準
練習が終わったら1行で言語化ができるかを試してください。
「今日は、〇〇が△△になった」
これが言えない練習は、だいたい“ただ回してる”だけで
やった感だけを追っている可能性があります。
NG4 痛み・違和感を根性で押し切る
私は資格的に診断はできませんので、医療の代わりになる話もできません。
ただ、継続して上達したいなら
痛みを“無視して頑張る”のは、最も損をしやすいです。
急なケガの直後は、腫れや炎症を抑えるためにまず冷却(アイシング)を勧め、RICE(Rest / Ice / Compression / Elevation)はオーソドックスな応急処置です。
また、急性期に「熱」「アルコール」「過度な運動」「マッサージ」は腫れや回復を長引かせる可能性がある、とするダンス医学団体の解説もあります。 (iadms.org)
そもそも慢性的に痛みが出るなら、バレエのテクニックも見直す必要があります。
受診や相談を優先したいサイン(目安)
・とても痛い/痛みが増えていく
・腫れや内出血が強い、または悪化していく
・体重を乗せると強く痛い
・動かしにくい/固まっている感じが強い
・セルフケアをしても良くならない
これは公的医療情報でも「助けを求めて」と案内されている項目です。 (nhs.uk)
医療機関を受診してください。
バレエでの現実的な“負荷を落とす”例
・可動域を小さくする
・テンポを落とす
・回数を減らす
・ジャンプやルルベを外し、立位とプリエだけにする
痛みがあるのにそれを根性で「取り返そう」としないでください。
これも上達の技術です。
NG5 寝不足だけどやる
睡眠については、言い切りが難しい分野ですが
睡眠が運動記憶の定着に小さな利益をもたらす、というメタ分析もあります(全体比較で小さな効果、など)。 (PubMed)
とにかく睡眠は、上達ブーストというよりも上達を落とさないための土台となります。
寝不足の日の正解(無理をしない)
・新しいことを増やさない
・基礎だけやる(立つ/プリエ/ルルベ)
・強度を上げない
・短く終える
判定基準
寝不足の日は
上達ではなく「維持」に切り替えたか。
ここで無理しない人が、長期で伸びます。
よくある言葉の捉え直し
☆「回数が正義」
→ 回数より、間隔と条件
☆「疲れてからが勝負」
→ 崩れた反復は、後日の学習を落とす可能性がある
☆「痛いけどやらないと」
→ 悪化する痛みは、継続を壊す。まず負荷を落として判断
☆「眠いけどやる」
→ 寝不足の日は、変に頑張りすぎない
まとめ
・詰め込まず、短く、別日に分ける
・崩れ始めたら、その課題は終わり
・目的は1つ。確認して直す
・痛みは根性で押し切らない。悪化サインは専門家に相談
・寝不足の日は、無理しない
次のレッスンで「2回崩れたら終了」を守ってください。
崩れたまま積まない。
きれいにできる範囲で終える。
これだけで、伸び方が変わります。
上達の仕方も今の時代は科学的な裏付けもあります。
数をやればいいというほど簡単ではないです。
最短距離を、最高効率で上達するためには
無理することが本当に必要なのかを考えてみてください。



