大人バレエアカデミー、
バレエトレーニングディレクターの猪野恵司です。
今回は、バレエ界であまりにも多くの人が「なんとなく使っている」けれど、実はちゃんと理解されていない言葉――**「引き上げ」**について、解説していきます。
「引き上げ」って一体なに?目的語がない“呪文”に注意
「もっと引き上げてー!」
よく聞く言葉ですが、「何を?どこを?どうやって?」と混乱したこと、ありませんか?
例えば「肘を伸ばして」なら意味が明確ですが、「引き上げて」には対象がない。
その状態で指導されても、生徒は「こんな感じかな?」と自己流になってしまう危険があります。
結論:引き上げるのは「内臓」
引き上げとは、内臓を上方向に持ち上げ、背骨に押し付けるような意識のこと。
そのために必要なのが以下の構造と筋肉です。
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骨盤底筋:内臓が下に落ちないよう底を支える
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腹横筋などの深層腹筋群:内側からコルセットのように内臓を支える
内臓を押し上げると、行き場を失った内臓が「上へ」逃げる。
これが「引き上げ」の正体です。
引き上げの4つのメリット
① 素早い動きがしやすくなる
内臓が固定されていないと、急な動きに追いつかず“ブレ”が生じます。
内臓を固定することで、体の内側から“芯のある動き”が可能になります。
② 背骨が安定する
腹筋と背筋で背骨を前後からサンドイッチ。
これにより、足を高く鋭く上げるときに重要な「腸腰筋」が最大限に働けます。
③ 重心が上がる=軽やかな動きに繋がる
バレエでは「妖精のように軽やかに動く」ことが求められます。
引き上げによって内臓が上がる=重心が上がり、スピードや跳躍が軽やかになります。
④ 重心のコントロールがしやすくなる
内臓を“集めて持ち上げる”ことで、身体の中心(重心)の感覚が明確に。
結果として、バランスが取りやすくなるという現象が生まれます。
よくある誤解:「引き上げれば踊れる」は違う!
「引き上げができてないから回れない」
「飛べないのは引き上げのせい」
よく聞きますが、それは“前提条件”が欠けているだけ。
「文字の“あ”も書けない状態で作文は書けない」状態です。
つまり、**引き上げは踊るための“最低限の基礎”**であって、
それ自体が完成形ではないということです。
日常でも鍛えられる!引き上げトレーニングのすすめ
この「内臓を引き上げる力」は、踊る時だけに発揮するものではありません。
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デスクワーク中
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電車待ちのとき
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食事の前後
こうした日常のあらゆるタイミングで“引き上げる”意識を持つことで、
自然とスタミナがつき、バレエでの実践力にも繋がっていきます。
まとめ:引き上げを「言葉」でなく、原理で理解しよう
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「引き上げ」とは内臓を腹筋で押し上げ、背骨に沿わせること
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解剖学と物理に基づいた合理的な意味がある
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これを明確に説明できる先生かどうかは、良い指導者の見極めポイント
「引き上げ」――それは曖昧な言葉ではなく、バレエの“核”となる身体原理です。
学んだことを、ぜひあなたのレッスンにも生かしてみてください。