こんにちは、大人バレエアカデミー™、バレエトレーニングディレクターの猪野です。
バレエの世界で教室に入ろうとすると、
特に大人のクラスに関しては、
楽しく踊りましょう、美容に役立ちます、
みたいな、
バレエをしっかり学ぶというよりも、
別の目的を提示するような教室が多く見られます。
そして今、大人バレエアカデミー™でも自由が丘スタジオのオープンを進めていますが、
新しいスタジオを作るたびに改めて思うことがあります。
それは、
大人の方が普通に「上手くなりたい」と思って来られる場所は、
実はそんなに多くないということです。
普通にバレエを上手くなりたい、
ちゃんと基礎から習いたい、
できないことができるようになりたい、
そう思っている大人の方はかなり多いと思います。
にもかかわらず、
その気持ちに真正面から応えようとするスタジオは意外と少ないです。
では、なぜそういうことが起こるのか。
今日はそのことについてお話ししていければと思います。
結論から先に言うと、
多くの教室が、
上達させるにはどうすればいいのか、
よく分かっていないからです。
身も蓋もない結論ですが、
ほぼこれが全てです。
もちろん、
先生がみんな悪意を持ってやっている、
と言いたいわけではありません。
ただ、
上達させる方法が分からないまま教えている人が多い、
という現実はあると思っています。
どういうことかというと、
昭和音楽大学のバレエレッスン実態調査によると(引用元リンク)、
「バレエ教師と教育内容の現状と変化」のページで、
指導者資格を取得した教師がいると回答した教室が、
14%しかないんです。
普通に考えて少ないですよね。

資格があれば絶対にいい先生になれるのか、
という話はまた別です。
実際、資格を持っていても教え方が雑な人はいますし、
資格を持っていなくても熱心に研究している人もいると思います。
ただ、少なくとも、
教えることに対して体系的に勉強している人が少ない、
ということはこの数字から見えてきます。
私はこれをかなり大きな問題だと思っています。
なぜなら、
教えるというのは本来、
自分が踊れることとは別の能力だからです。
自分ができることと、
人にできるようにさせることは全く違います。
ここを一緒にしている人が本当に多いです。
バレエを長くやってきた、
舞台に出てきた、
コンクール経験がある、
留学していた、
そういう経歴はもちろん価値があります。
でも、それだけで
人を上達させられるわけではありません。
むしろ、
自分は当たり前にできてしまう人ほど、
どこで相手がつまずいているのか分からず、
感覚でしか教えられないことも多いです。
そうすると何が起こるかというと、
レッスンの中身が
「何となく動く」
「何となく真似する」
「とにかく楽しく踊る」
という方向に流れていきます。
なぜなら
上達させるレッスンを約束できないからです。
約束できないものは売れないので、
別の言い方をするようになります。
楽しく踊りましょう、
気持ちよく体を動かしましょう、
美容にもいいです、
姿勢もよくなります、
みたいな言い方になっていくわけです。
もちろん、
楽しく踊ること自体が悪いわけではありません。
楽しくないより楽しい方がいいに決まっています。
でも、
上達したいと思っている人に対して、
上達の話をせずに
楽しさだけを前面に出すのは、
かなり不誠実だと思っています。
なぜなら、本人は上手くなりたいわけですから。
そこに対して、
いやいや楽しくやれればいいじゃないですか、
というのは、
本人の目的から目を逸らさせているだけです。
私は大人の方に対して、
大人なんだから楽しければいい、
とは全く思っていません。
むしろ大人だからこそ、
限られた時間とお金を使って来ているわけです。
だったら、
ちゃんと上手くなる方向に時間を使いたいと思うのは当然です。
そこを曖昧にしてはいけないと思っています。
それでさっきの調査でさらに面白いのが、
資格の取得を考えている教師がいる、
という回答はあるのに、
毎回の調査のたびに
実際に取得した割合が全然増えていないことです。

つまり、
口では
「資格ほしい」
「勉強しなきゃ」
「ちゃんとしないと」
と言っていても、
実際にはあまり行動に移していない可能性が高い、
ということです。
これはバレエに限らずですが、
勉強したい、
改善したい、
ちゃんとしたい、
という言葉はいくらでも言えます。
でも、
実際に勉強して、
実際に仕組みを作って、
実際にレッスンを変えて、
実際に生徒の上達に責任を持つ、
というところまでやる人は少ないです。
そして、
その少なさがそのままレッスンに出ます。
教え方が分からない人がレッスンを受け持つと、
レッスンでできることは限られます。
その場をなんとなく回す、
雰囲気を悪くしない、
生徒さんを嫌な気持ちにさせない、
とりあえず時間を成立させる。
このあたりが中心になります。
すると当然ですが、
レッスンは
上達のための時間というよりも、
参加したらなんとなく満足できる時間
になっていきます。
それが悪いと言いたいのではなく、
少なくとも
上達したい人が求めているものではない、わけです。
上達をさせるには、
何ができていなくて、
その原因がどこにあって、
何を先にやるべきで、
どの順番で積み上げるか、
そこまで見えないといけません。
例えば、
足が上がらない、
回れない、
立てない、
引き上がらない、
こういう悩みがあったとしても、
全部に対して
「もっと頑張って」
「もっと引き上げて」
「もっとお腹を使って」
で済ませていたら、
当然上達しません。
なぜなら、
その言葉では何も分解されていないからです。
どこの位置が崩れているのか、
どこの可動性が足りないのか、
どこの安定性がないのか、
何を先に作らないとその動きが成立しないのか、
そこを見ないといけません。
でも、その見方を勉強していないと、
結局は感覚的な注意しかできなくなります。
そうすると、
できる人はできる、
できない人はずっとできない、
というレッスンになります。
これは指導ではなく、
選別に近いです。
もともとできる人だけが残る仕組みなら、
それは教え方が上手いのではなく、
教えなくてもできる人が残っただけです。
私はそこをかなり厳しく見ています。
あと、美容バレエみたいな言い方をしているところもありますが、
あれも結局は、
運動していない人が運動し出したら多少健康になる、
という程度のことであって、
美容そのものと強く結びついているわけではありません。
バレエをしたら急に綺麗になるとか、
細くなるとか、
姿勢が全部良くなるとか、
そんな単純な話ではないです。
やり方が悪ければ、
普通に腰も痛くなりますし、
首も固まりますし、
前ももばかり太く使うこともあります。
つまり、
バレエという看板をつけた瞬間に
何か特別な効果が発生するわけではないんです。
結局は、
何をどう教えるのか、
身体をどう使わせるのか、
そこが全てです。
でも、
そこに自信がないから、
美容とか姿勢とか、
入り口の見た目がよさそうな言葉を前に出すわけです。
要は、
見た目のハードルを下げて
体験に来てくれる人を増やしたい、
という主催者側の動機があるだけで、
実際に行ってみたら
ただレッスンをするだけ、
ということも珍しくありません。
最初に言っていたことと、
中でやっていることが一致していないわけです。
私はこういうのがバレエ界の嫌いなとこです。
なぜなら、
来る人は素人だからです。
バレエを始めたい人は、
業界の中身なんて知りません。
何を基準に選べばいいかも分からないし、
どの言葉が本当で、
どの言葉がただの集客用なのかも分からない。
だからこそ、
教室側が誠実でないといけないです。
上達を約束できないなら、
上達は言わない。
美容が目的なら、
美容として何をやるのかをきちんと示す。
趣味として楽しくやるなら、
それを正直に言う。
本来はそうなんですが
でも現実には、
上達も言う、
楽しいも言う、
美容も言う、
初心者向けも言う、
本格指導も言う、
みたいに、
都合のいい言葉を全部並べるところが多いです。
それはただ、
誰に何を提供しているのかが決まっていないだけです。
そして、
決まっていないものは、
当然中身もぼやけます。
大人のバレエで本当に必要なのは、
大人だからこそ分かる説明と、
大人でも積み上がる順番を作ることです。
子どものように週に何回も通えるわけではない、
身体の条件も違う、
仕事もあれば生活もある、
疲労の出方も違う。
その中で上達させるには、
何を削って、
何を優先して、
何を反復するかを考えないといけません。
でも、
そこまで考えて設計している教室はそんなに多くありません。
だから私は、
大人の方に対して
楽しく踊れればいいですよ、
とは言いません。
上手くなりたいなら、
上手くなるためのことをやりましょう、
としか言いません。
もちろん、
その過程で楽しいことはあります。
できなかったことができるようになるのは楽しいです。
身体の使い方が分かってくるのも楽しいです。
前より立てる、
前より回れる、
前より動きが繋がる、
そういう実感はすごく楽しいです。
でもそれは、
ごまかした楽しさではなく、
上達した結果として生まれる楽しさです。
私はそちらの方がずっと健全だと思っています。
そして、
自由が丘スタジオをオープンするのも、
ただ場所を増やしたいからではありません。
大人の方が、
ちゃんと基礎から学べて、
ちゃんと上達を目指せて、
そのための説明と順番がある場所を増やしたいからです。
楽しいだけで終わらせない。
雰囲気だけで満足させない。
できないことをできるようにしていく。
上達にこそ本当の楽しさがあります。
そこにきちんと向き合える場所を増やしたいから、
自由が丘にもスタジオを作ります。
バレエの教室を探すときにも
何を目的にしている教室なのか。
その先生は、
上達のための順番を持っているのか。
できないことに対して、
具体的に何を変えるのかを説明できるのか。
そこを見た方がいいです。
楽しいかどうかはその後です。
本当に上達する場所は、
楽しいと言う前に、
何を積み上げるかをちゃんと持っています。
そして、
大人だから仕方ない、
趣味だからこのくらいでいい、
とは言いません。
大人でも、
趣味でも、
きちんと上達はできます。
ただし、
ちゃんと教えられる人のところでやれば、
という話です。
今日は少し厳しめに書きましたが、
私は本当に、
普通に上手くなりたいと思っている大人の方が、
ちゃんと報われてほしいと思っています。
そのためには、
教室選びの段階で、
聞こえのいい言葉に騙されないことです。
何を教えてくれるのか。
どうやって上達させるつもりなのか。
そこが見えないところは、
やめておいた方がいいです。
大人が本気で頑張ろうとしているのに、
教える側が曖昧では困るんです。
大人の趣味だから適当でいい、
なんてことはありません。
むしろ大人の方が、
時間もお金も体力も有限だからこそ、
ちゃんとしていないといけません。
私はこれからも、
上達したい大人の方に対して、
その気持ちに真正面から応えられる場所を作っていきたいと思っています。
自由が丘もその一つです。
ただ通う場所を増やすのではなく、
上達したい大人の方が、
ちゃんと前に進める場所を増やしていきます。




