こんにちは、大人バレエアカデミー™、バレエトレーニングディレクターの猪野です。
レッスンをしていると、生徒さんからたまに聞かれることがあります。
「前の先生には逆のことを言われたんですが、どっちが正しいんですか?」
これは、バレエを長くやっている人ほど一度は感じたことがあると思います。
ある先生には「もっと引き上げて」と言われたのに、別の先生には「力を抜いて」と言われる。
「もっとターンアウトして」と言われたと思ったら、次の先生には「そんなに無理に開かなくていい」と言われる。
こうなると、生徒さんからしたら混乱しますよね。
私もバレエを始めた頃は、先生によって言われることが違うと、「結局どれが正しいんだろう」と思っていました。
ただ、教える側になってから分かったのは、言っている言葉が違っても、必ずしも先生同士の考えが真逆なわけではないということです。
同じ身体でも、先生によって見ている場所が違う
例えば、ルルベでバランスを崩している人がいたとします。
その人を見て、一人の先生は足首が崩れているのが気になるかもしれません。
別の先生は、骨盤が後ろに残っているところを見るかもしれない。
また別の先生は、肩に力が入って上半身が固まっているところを見るかもしれません。
どれも同時に起きていることがあります。
でも、全部を一度に言われたら、今度は何を直せばいいのか分からなくなります。
だから私はレッスンでも、今この人が一番変えやすいところはどこかを見て、まず一つ伝えることがあります。
別の先生が違う場所を選べば、当然、言うことも変わります。
生徒さんからすると「先生によって違う」と感じますが、実際には同じ身体を違う場所から見ているだけということもかなりあります。
上達の段階が変われば、必要な注意も変わる
もう一つあるのが、その人の段階によって注意が変わるケースです。
これを勘違いする方がとても多くて、
最初の頃は「まず余計な力を抜きましょう」と言っていた人に、少し身体の使い方が分かってきたら、「今度はここをもっと使いましょう」と言うことがあります。
すると、
「前は力を抜けと言われたのに、今度は力を使えと言われました」
となります。
でも、これは矛盾しているわけではありません。
その時その時で必要なことが違うんです。
初心者の段階で全部を完璧にやろうとすると、身体が固まって何もできなくなる人もいます。
だから最初はやることを減らす。
そこができるようになったら、少しずつ精度を上げていく。
バレエはこういうことがかなり多いです。
一度言われた注意を、その後ずっと同じ強さで守り続ければいいわけではありません。
身体が変われば、必要な注意も変わります。
先生によって「教え方」そのものが違う
先生によって教え方そのものが違うこともあります。
感覚で伝えるのが得意な先生もいます。
「頭を上から引っ張られているように」
「床を遠くに押して」
「脚を長く使って」
こういう表現で一気に分かる人もいます。
一方で、私はどちらかというと、それだけで分からない人には、もう少し具体的に説明した方がいいと思っています。というかそちらが得意です。
どこを動かすのか。
どこを安定させるのか。
力をどの方向に出すのか。
「引き上げて」と言われても分からない人に、さらに「もっと引き上げて」と言い続けても、分からないものは分かりません。
その場合は、言葉を変える必要があります。
同じ言葉でも、先生によって意味が違うことがある
ただ、ここで難しいのが、バレエには同じ言葉でも先生によって意味が少し違うものがあることです。
「力を抜いて」も、全身の力を抜けという意味ではありません。
肩や首だけの余計な力を減らしてほしいのかもしれない。
「もっと引き上げて」も、胸を高くしてほしいわけではなく、骨盤の位置を安定させてほしいのかもしれません。
だから、言葉だけを覚えていると余計に混乱します。
私は、生徒さんが「前の先生にはこう言われました」と言ったとき、その言葉自体よりも、「そのとき何を直そうとしていたんだろう」と考えるようにしています。
例えば、
「前はもっとターンアウトしてと言われました。でも今回は無理に開かなくていいと言われました」
という場合。
前の先生は股関節をもっと使ってほしかったのかもしれません。
今の先生は、膝や足首までねじって開こうとしているのを止めたいのかもしれません。
言葉だけ見ると反対です。
でも、実際に直そうとしている場所が違えば、両方とも成立します。
本当に先生同士の考え方が違う場合もある
もちろん、本当に先生同士で考え方が違うこともあります。
育ってきたメソッドも違いますし、自分が習ってきたやり方をそのまま教える先生もいます。
身体に対する考え方も違います。
なので、すべての先生が同じことを言うことはないと思います。
ただ、そこで「有名な先生だから正しい」「プロで踊っていたから正しい」と決めてしまうのは、私は少し違うと思っています。
踊れることと、教えられることは同じではありません。
その注意を受けて、自分の身体がどう変わったのか。
前より動きやすくなったのか。
痛みが出ていないか。
同じ動きをもう一度できるようになったのか。
私はそちらを見る方が大事だと思っています。
先生によって言うことが違ったときは、何を聞けばいいのか
もし先生によって言うことが違って混乱したら、
「今の注意は、私のどこを直すためのものですか?」
と聞いてみるといいと思います。
これなら、先生側も説明しやすいです。
「前の先生と言っていることが違います」
だけだと、どちらが正しいかという話になってしまいます。
でも本当に知りたいのは、そこではないはずです。
今、自分の身体の何を変えようとしているのか。
そこが分かれば、先生が違っても整理しやすくなります。
注意をたくさん覚えることが上達ではない
いろいろな先生からいろいろな注意をもらって、それを全部集めていくと、頭の中がいっぱいになることがあります。
「肩を下げる」
「胸を上げる」
「お腹を使う」
「力を抜く」
「床を押す」
「引き上げる」
全部やろうとして、結局身体が固まっている人も実際にいます。
注意をたくさん覚えることが上達ではありません。
その注意が、自分の身体の何を変えるためのものなのかが分かることの方が大切です。
先生によって言うことが違ったときに、すぐに「どちらかが間違っている」と考えなくてもいいと思います。
同じ身体を別の場所から見ていることもありますし、自分の段階が変わったから注意が変わっただけかもしれません。
ただ、何のために言われているのか分からないまま練習を続ける必要もありません。
分からなければ聞いていいです。
私はその方が、ただ言われたことを覚えるより、ずっとバレエの上達につながると考えています。




