こんにちは、大人バレエアカデミー™、バレエトレーニングディレクターの猪野です。

今日は、バレエの世界でもよく使われる「体幹」という言葉についてお話します。

 

レッスン中に、

「体幹が弱い」
「もっと体幹を使って」
「軸がぶれるのは体幹がないから」
「体幹を鍛えれば安定する」

と言われたことがある人は多いと思います。

 

姿勢を保つ力、背骨や骨盤を安定させる力、片脚で立ったときに身体を崩さない力は、バレエにおいて大切です。

ただし、「体幹」という言葉が便利に使われすぎていることは問題です。

脚が上がらない。
軸がぶれる。
回転で止まれない。
アラベスクで腰が落ちる。
ルルベでぐらつく。

これらを全部まとめて、

「体幹が弱いですね」

で終わらせてしまう。

これでは、生徒さんは何を直せばいいのか分かりません。

日本のスタジオの85%はバレエを教えるための勉強をしていないので、

つい目のまえの転がっている情報で問題を解決しようとする傾向があります。

 

そういう雑さに巻き込まれないように

今回は、なぜ体幹という言葉がここまで広がったのか。そして、バレエの上達に本当に必要なのは何かを整理していきます。

体幹という言葉は、もともと意味のある考え方だった

まず確認しておきたいのは、体幹という考え方自体が間違っているわけではないということです。

当然ながらバレエでは、身体の中心部のコントロールが必要です。

片脚で立つとき、脚を上げるとき、プリエから立ち上がるとき、ルルベで保つとき、アラベスクをするとき、ピルエットを回るとき。

背骨、骨盤、肋骨、股関節まわりの関係が崩れると、動き全体に影響が出ます。

 

たとえば、片脚で立ったときに骨盤が横へ逃げると、軸は安定しません。

肋骨が前に開きすぎると、腰を反って立つ形になりやすくなります。

足裏で床を押せていなければ、上半身だけを固めてもルルベは安定しません。

つまり、身体の中心部がバレエの動きに関係しているのは事実です。

 

故に、体幹は大切です。

なんですが、「体幹が大切」ということと、

「できない理由を全部体幹にする」ことは別の話なんです。

なぜ体幹という言葉はここまで広がったのか

体幹という言葉が広がった背景には、医学、リハビリ、スポーツ、フィットネスの影響があります。

もともとは、腰痛や姿勢、背骨の安定性に関する考え方の中で、身体の深い部分にある筋肉が注目されました。

腹横筋、多裂筋、横隔膜、骨盤底筋群などは、背骨や骨盤の安定に関係すると考えられています。

手や脚を動かす前に、身体の中心部が準備をする。

この考え方は、リハビリやトレーニングの現場で重要視されるようになりました。

 

本来は、どの筋肉が働いているのか、どのタイミングで働くのか、背骨や骨盤の安定とどう関係するのかまで見る必要があります。

しかし、専門的な考え方が一般に広がるとき、言葉は単純化されます。

その結果、

「インナーマッスルが大事」
「体幹を鍛えると姿勢が良くなる」
「体幹が強いと安定する」

という分かりやすい言葉になって広がっていきました。

スポーツとフィットネスが体幹ブームを作った

体幹という言葉がさらに広がった理由は、スポーツやフィットネスとの相性が良かったからです。

スポーツでは、身体の中心部が安定すると、手足の力が伝わりやすいと説明されることがあります。

走る、跳ぶ、投げる、蹴る、方向転換する。

こうした動きでは、腕や脚だけでなく、身体全体の連動が必要です。

そのため、

「体幹が安定すると力が逃げない」
「体幹が強いとパフォーマンスが上がる」
「体幹が弱いとフォームが崩れる」

という説明が広まりました。

 

さらに、フィットネス業界にとって体幹は非常に使いやすい言葉でした。

 

体幹トレーニング、コアトレーニング、インナーマッスル、姿勢改善、軸を作る、お腹を引き締める。

これらの言葉は専門的に聞こえ、効果がありそうに見えます。

初心者にも何となく分かりやすく、プランク、腹筋、バランスボール、ピラティス系のエクササイズなどと一緒に、「体幹を鍛える」という言葉は一般の人にも広がっていきました。

ここで、体幹は専門的な概念から、便利な流行語に変わっていきます。

効果がゼロとは言えないのですが、問題の特効薬みたい考え方は

再考の余地が出てきます。

バレエでは「説明を省略する言葉」になりやすい

バレエの現場でも、体幹という言葉はよく使われます。

軸がぶれる。
脚が上がらない。
ルルベでぐらつく。
ピルエットで止まれない。
アラベスクで腰が落ちる。
ジャンプの着地が不安定になる。

こうした場面で、

「体幹が弱い」
「もっと体幹を使って」

と言われることがあります。

しかし、これは非常に注意が必要です。

たとえば、アラベスクで腰が落ちる場合を考えてみます。

原因は、体幹だけとは限りません。

支持脚に乗れていないのかもしれません。

股関節の伸展が足りないのかもしれません。

脚を上げる方向が合っていないのかもしれません。

背骨を伸ばす感覚が分かっていないのかもしれません。

骨盤を固めすぎて、逆に股関節の動きが詰まっているのかもしれません。

原因が違えば、練習方法も変わります。

それなのに全部を「体幹が弱い」で片づけてしまうと、本当の問題が見えなくなります。

必要なのは何が問題であるのかを考える力と

試した結果効果がないとわかったときに、それを修正して別の可能性を試していく力です。

「体幹を使って」と言われると、多くの人は固めてしまう

体幹という言葉の難しさは、聞いた側が何をすればいいのか分かりにくいところにあります。

「体幹を使って」と言われたとき、多くの人はお腹を固めます。

腹筋に力を入れる。
息を止める。
背中を固める。
骨盤を動かさないようにする。

一見すると、安定しているように見えるかもしれません。

しかし、バレエは固まって立つものではありません。

動き続けながら、必要なところを保つものです。

お腹を固めすぎると呼吸が浅くなり、背中や股関節の動きも制限されます。

つまり、体幹を使おうとした結果、かえって踊りにくくなることがあるのです。

ここを理解しないまま体幹トレーニングだけを増やしても、バレエの動きに直結しない場合があります。

バレエに必要なのは「固める力」ではなく「動きながら保つ力」

バレエで必要な体幹は、プランクを長く我慢する力だけではありません。

基礎的な筋力は必要です。

しかし、バレエで求められるのは、止まった状態で身体を固める力よりも、動きの中で身体の関係性を保つ力です。

脚を前に出したとき、身体が後ろへ逃げない。

片脚に乗ったとき、骨盤が横へ流れない。

プリエから立ち上がるとき、床を押す力が背骨につながる。

腕を動かしたとき、肋骨が過剰に開かない。

回転中に、重心が支持脚から外れすぎない。

こうした調整が必要です。

バレエに必要なのは、身体を固めることではなく、動きながら保つことです。

ここを間違えると、トレーニングでは強くなった気がするのに、レッスンでは変わらないということが起きます。

「体幹が弱い」で終わらせる前に見るべきこと

バレエで動きが崩れるとき、本当に見るべきことは一つではありません。

起きていること 本当に見るべきこと
ルルベでぐらつく 足裏で床を押せているか。重心が支持基底面から外れていないか。
ピルエットで軸がずれる プレパレーション、重心移動、腕のタイミング、首の使い方が合っているか。
アラベスクで腰が落ちる 支持脚、股関節、背骨、骨盤の関係が崩れていないか。
プリエで膝が内側に入る 股関節、膝、足首の向きがそろっているか。
脚を出すと上半身が逃げる 脚の動きに対して、身体の重心をどこに保つべきか理解できているか。
腕を使うと姿勢が崩れる 肩甲骨、肋骨、背骨の関係が乱れていないか。

このように分けて見ると、「体幹」という一言では足りないことが分かります。

体幹が関係している場合もあります。

しかし、足裏、股関節、背骨、骨盤、腕、呼吸、タイミングが関係していることもあります。

だからこそ、指導では「どこが、どう崩れているのか」を見る必要があります。

体幹という言葉を使うなら、具体的に使うべき

私は、体幹という言葉を使ってはいけないと言いたいわけではありません。

使うなら、具体的に使うべきです。

「体幹を使って」だけでは、生徒さんは何をすればいいのか分かりません。

それよりも、

「片脚に乗ったとき、骨盤が横に逃げないようにしましょう」

「床を押した力で、背骨を上に伸ばしましょう」

「脚を出したときに、身体が反対側へ逃げないようにしましょう」

「お腹を固めるのではなく、背骨の長さを保ちましょう」

「プリエから立ち上がるときに、骨盤だけが前に出ないようにしましょう」

このように伝えた方が、生徒さんは何をすればいいのか分かります。

生徒さんに必要なのは、雰囲気のある言葉ではありません。

身体のどこを、どう変えればいいのかが分かる言葉です。

 

何をどうすればいいかをきちんと示せるかが先生の腕の見せ所です。

大人からバレエを始める人ほど、具体的な説明が必要

大人からバレエを始める人にとって、「体幹を使って」という言葉はかなり曖昧です。

子どもの頃から長く踊っている人であれば、感覚的に分かる部分もあるかもしれません。

しかし、大人の場合は、何をどうすればいいのかを具体的に理解した方が上達しやすくなります。

どこに重心を置くのか。
どの方向に床を押すのか。
骨盤を止めるのか、動かすのか。
背骨は固めるのか、伸ばすのか。
脚を出したときに、上半身はどこに残るのか。

こうしたことを一つずつ整理していく必要があります。

「体幹が弱いからできない」で終わってしまうと、何を練習すればいいのかが見えません。

本当に必要なのは、できない理由を身体の仕組みから分けて考えることです。

プランクをとりあえずやってみて、効果を感じなかったら結局はやるべきことがずれている

ということを疑う必要があります。

よくある質問

Q. バレエに体幹トレーニングは必要ないのですか?

必要ないわけではありません。

ただし、体幹トレーニングだけでバレエが上達するわけではありません。

バレエでは、止まった状態で身体を固める力だけでなく、動きながら重心や骨盤、背骨を調整する力が必要です。

体幹トレーニングをする場合も、バレエの動きとどうつながるのかを考えることが大切です。

Q. 「体幹が弱い」と言われたら、何をすればいいですか?

まずは、どの動きで崩れているのかを確認することです。

ルルベで崩れるのか。
ピルエットで崩れるのか。
アラベスクで腰が落ちるのか。
プリエで膝が内側に入るのか。

動きによって原因は変わります。

「体幹が弱い」とまとめずに、足裏、股関節、骨盤、背骨、重心の位置を分けて見た方が改善しやすくなります。

Q. お腹に力を入れることは間違いですか?

完全に間違いではありません。

ただし、お腹を固めすぎると、呼吸が止まり、背中や股関節の動きも制限されることがあります。

バレエでは、お腹を固めるよりも、背骨の長さを保ち、肋骨や骨盤が必要以上に崩れないようにする感覚の方が大切です。

Q. プランクをすれば軸は安定しますか?

プランクで基礎的な筋力がつくことはあります。

しかし、プランクが長くできることと、バレエの軸が安定することは同じではありません。

ピルエットやルルベでは、床の押し方、重心移動、足裏、股関節、腕のタイミングなども関係します。

プランクだけで解決しようとするのではなく、バレエの動きの中で練習することが必要です。

まとめ

体幹という言葉がここまで広がったのは、もともと意味のある考え方だったからです。

医学やリハビリの世界では、背骨や骨盤の安定性が注目されました。

スポーツの世界では、身体の中心部が安定すると、手足の力が伝わりやすいと考えられました。

フィットネス業界では、体幹トレーニングが分かりやすく、取り入れやすい言葉として広がりました。

そしてバレエの現場では、動きの問題を説明する便利な言葉として使われるようになりました。

しかし、「体幹が弱いからできない」で終わらせてしまうと、本当の原因は見えません。

大切なのは、どの動きで崩れているのか、どの方向に重心が外れているのか、どの関節が働いていないのか、どのタイミングで力が抜けているのかを具体的に見ることです。

体幹は大切です。

ただし、体幹という言葉で全部を説明した気になってはいけません。

バレエの上達に必要なのは、ただ体幹を鍛えることではなく、自分の動きの中で何が起きているのかを知ることです。

大人バレエアカデミー™では、感覚的な言葉だけで終わらせず、身体の仕組み、重心、関節の使い方、段階的な練習を大切にしています。

「体幹を使って」で終わるのではなく、何をどうすれば動きが変わるのか。

そこを具体的に学ぶことが、大人からバレエを上達させるための第一歩です。

 

ぜひ一度考えてみてください。

大人バレエアカデミー™ではこのような本質を追うようなレッスンを展開しております。

興味があるかたは是非一度体験レッスンをご検討ください。

参考にした考え方

体幹やコアに関する考え方は、腰痛リハビリ、脊柱安定性、運動制御、スポーツパフォーマンスの分野で広がってきました。

代表的には、腹横筋や多裂筋などの働き、手足の運動に先行する体幹部の準備、コアスタビリティと動作制御に関する研究があります。

ただし、これらの考え方は「お腹を固めればバレエが上達する」という意味ではありません。

バレエに応用するなら、静止した筋力ではなく、動きの中で重心、骨盤、背骨、股関節をどう扱うかまで見る必要があります。

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